■欧州で鍛え上げられたスイフトのフットワークは評価が高い
最近のスズキは登録車(軽自動車ではないクルマ)のラインナップが増えているため、スイフトは必ずしも登録車の主力モデルではなくなっている。だが、スズキが世界中の市場で確かな存在感を示していくためには、スイフトのデキが極めて大きな課題となる。
そもそもスイフトは、初代モデルが軽自動車のプラットホームをベースにした派生車種的な作り方をされた後、2004年に登場した2代目モデルが本格的な小型車として開発され、日欧、アジアなどでスズキの存在感を高めることにつながった。軽自動車派生ではく、小型車専用モデルとして開発されただけでなく、足回りのチューニングなどをヨーロッパの道を走り込んで磨くなど、それ以前のスズキのクルマとは全く違う作り方がなされたからだ。
2010年からの3代目を挟んで2017年に4代目スイフトが登場した。スズキでは、軽自動車派生の初代スイフトのことは忘れてしまいたいようで、現行スイフトを3代目と呼んだりしているが、正確に数えたら現行モデルは4代目である。
■スイフト伝統のデザインを受け継いだ新型スイフト
外観デザインは、スイフトのDNAとなるデザイン的な要素を盛り込みながら、一定の存在感を持ち、スポーティさと躍動感を与えるものに仕上げられた。ラップラウンドウインドーやショルダーライン、縦型基調の前後ランプなどがスイフトのDNAを受け継ぐ要素だ。逆にピラーをブラックアウトしてフローティングルーフのデザインとしたのは新しく取り入れられた要素である。
ホイールベースを延長した新プラットホームを採用することで、低めの全高と合わせて走りを予感させるプロポーションとしている。ただ、全体としては際立って特徴的なデザインというほどではなく、世界にさまざまな競合車が存在することを考えると、もう少しインパクトのあるデザインにして欲しいようにも思った。
なお、スポーティグレードのRSには中央に赤い横バーの入ったメッシュグリルが採用されるほか、バンパー形状もよりスポーティなものになって差別化が図られている。
インテリアは、ドライバーを優先したデザインが施されている。インパネ中央のパネルなどはわずかにドライバー側に傾けたドライバー・オリエンテッドのデザインが採用されていて、スポーティなイメージを強めている。
円筒をモチーフとしたメーターやエアコンのコントロール系、エアコンのアウトレットなどが特徴的で、フラットボトムのD字型ステアリングホイールやホールド性を高めたシートなども特徴となる部分だ。
スピードメーターとタコメーターの間には、カラー液晶ディスプレーが配置され、ここにさまざまな走行情報が表示される。瞬間燃費と平均燃費、航続可能距離、平均車速と積算走行時間、時計、モーション表示、パワー/トルク表示、アクセル/ブレーキ操作表示などが、切り替え式で表示可能だ。
インテリア回りについて注文を付けたいのは、後席の居住性だ。競合車のひとつであるフィットが広い後席を持つのに比べるとかなり狭い印象になる。ただ、スイフトが前席重視の空間設計をしているのは個性というべきもので、最初から、後席に人を乗せることはあまり重視していない。後席に乗せたいならソリオなどを選んで欲しいということなのだろう。
■燃費性能も物足りなく、やや中途半端感あるスイフトRStの評価は?
パワートレーンは、3種類が用意されている。最もパワフルなのはRStに搭載される直列3気筒1.0Lの直噴ターボ仕様エンジンで、75kW/150N・mのパワー&トルクを発生する。このエンジンは先にバレーノに搭載されたのと同じものだが、バレーノではプレミアムガソリン仕様だったものがレギュラーガソリン仕様とされている。そのために動力性能の数値はやや下がったが、今どきの日本ではレギュラーガソリン仕様が当然だろう。トランスミッションは6速ATのみの設定だ。
やや抑えられたとはいえ、150N・mの数値は自然吸気エンジンなら1.5Lエンジンに相当するもの。新プラットホームの採用で軽量化が進んだ新型スイフトのボディに対しては十分な性能である。最近の直噴ターボらしく低速域から十分なトルクを発生し、相当に元気の良い走りが可能である。6速ATの滑らかな変速フィールも不満のないものだ。
ただ、元気良く走らせるとそれなりに騒音レベルが高め。スイフトの燃費は20.0km/Lにとどまっていて、エコカー減税のレベルに届いていない。
さらに、この先よりスポーティな志向を強めたスイスポが登場してくることを考えると、RStは何とも中途半端な存在に思えてくる。今の時点で積極的に選ぶ意味があるとは思えない。スイフト スポーツが登場してくれば、RStよりもずっと高い価格が設定されるのだろうから、これはこれで意味のあるグレードなのかも知れないが・・・。
■燃費、スマートさなど総合力でマイルドハイブリッド車がおすすめ
1.0Lのターボのほかに1.2Lの自然吸気エンジンと、同マイルドハイブリッドの2種類の設定がある。ガソリン車には試乗できなかったが、試乗したマイルドハイブリッドのRSはなかなか具合の良いクルマだった。RStは騒音が大きめなのに対し、マイルドハイブリッドのRSは静かでスムーズな走りが可能。走りの質感という観点から考えると、RStよりも断線優位に立つイメージだ。
ハイブリッドの搭載エンジンは、直列4気筒1.2LのK12C型。デュアルジェットにより67kW/118N・mの動力性能を発生する。これにモーター機能付き発電機のISGとリチウムイオン電池を組み合わせて搭載する。マイルドハイブリッドなのでモーターによるアシストはほんのわずかでしかないが、発進加速のときなどにアシストが加わるので、並の1.2Lエンジンを超えた走行フィールが得られる。しかも静かで滑らかである。
マイルドハイブリッドとガソリン車のトランスミッションは無段変速のCVTだが、マイルドハイブリッドにはパドルシフトが備えられている。積極的にパドルを操作してマニュアル車感覚の走りを楽しむこともできる。
マイルドハイブリッドの価格はガソリン車に対して10万円ほど高くなるが、エコカー減税のレベルが上がり、燃費も27.4km/Lとガソリン車の22.6km/Lに対して差をつけているので、走りや燃費などを総合的に考えると、新型スイフトで選ぶべきはマイルドハイブリッドだろう。
■軽量化されたボディが、優れたフットワークを生んでいる
新型スイフトの走りが軽快なのは、ひとつには新プラットホームによる最大120kgに達する大幅な軽量化が図られたからだ。新型スイフトは、4WD車やターボ車を含めて全車が1tを切る車両重量となっている。走りの軽快感を支えるもうひとつの要素は、RS系を中心にヨーロッパで磨き込まれた足回りを採用しているからだ。
高速道路だけでなく一般道でも、走行する速度域が日本より高いヨーロッパでの走りを基準にしているので、優れた操縦安定性を発揮するクルマに仕上げられている。それでいて乗り心地をスポイルすることなくバランスの取れた走りを示している。ターボとマイルドハイブリッドのRS系に共通する特徴だ。
安全装備の充実化も大きなポイントだ。単眼カメラ+赤外線レーザーのデュアルセンサーブレーキサポートという新しい自動ブレーキを採用している。スズキはスペーシアなどの軽自動車にデュアルカメラブレーキサポートを採用しているが、今回は新方式の先進緊急ブレーキを採用してきた。
スズキの関係者の説明を聞くと、デュアルセンサーとデュアルカメラのどちらが良いのか微妙なものがあるようだが、デュアルカメラ方式を設定するのもひとつの方法だったと思う。いずれにしても、デュアルカメラもデュアルセンサーも人間も見分けて制動をかける点で満足できる性能を備えていると考えていい。具体的な対応速度域などは自動車アセスメントの結果を待つしかない。
ひとつ不思議に思うのは、スイフトには欧州での販売も考えて、アダプティブクルーズコントロールが装備されている。これにはミリ波レーダーが使われているのだ。だから本当なら、ミリ波レーダー+単眼カメラを組み合わせた方式にしたほうが、より高い性能の先進緊急ブレーキができたはずなのだが、そのようなことにはならなかった。
これはどうやら、自動ブレーキとクルーズコントロールの要素技術が、それぞれが別に開発されていたため、結果としてちぐはぐな設定になってしまったようだ。もちろんコストも関係するが、先進緊急ブレーキに関するスイフトの仕様は、一種の過渡期にあるのかも知れない。
■スズキ スイフト価格
・XG 2WD 5MT 1,343,520円/CVT 1,343,520円/4WD 1,497,960円
・XL 2WD 5MT 1,463,400円/CVT 1,463,400円/4WD 1,617,840円
・HYBRID ML 2WD 1,625,400円/4WD 1,779,840円
・RS 2WD 5MT 1,594,080円
・HYBRID RS 2WD CVT 1,691,280円/4WD 1,845,720円
・RSt 2WD 6AT 1,704,240円
■スズキ スイフト燃費、スペックなど
代表グレード | スズキ スイフトHYBRID RS |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 3,840×1,695×1,500mm |
車両重量[kg] | 910kg |
総排気量[cc] | 1,242cc |
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] | 91(67)/6,000rpm |
エンジン最大トルク[N・m(kg-m)] | 118(12.0kg・m)/4,400 |
モーター最高出力[ps(kw)] | 3.1(2.3)/1,000rpm |
モーター最大トルク[N・m(kg-m)] | 50(5.1)/100rpm |
ミッション | CVT |
最小回転半径[m] | 4.8m |
バッテリー 種類 | リチウムイオン電池 |
価格 | 1,691,280円 |
レポート | 松下 宏 |
写真 | 編集部 |
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