トヨタ GRMNヴィッツターボ プロトタイプ新車試乗評価の目次
雑味のない洗練されたチューニングカーがトヨタGRMNヴィッツ ターボ
GAZOO Racingがプロデュースするチューニングカー、トヨタGRMNヴィッツ ターボのプロトタイプに乗る機会を得た。場所は、富士スピードウェイのショートコースだ。本来なら、サーキット走行はストレス無くドライビングを楽しめるので、テンションは高めになるのだが、今回はちょっと憂鬱な感じ。それは、ヴィッツターボという名前の通り、ターボによるチューニングカーという荒々しいイメージの先入観があった。
そもそも、ノーマルのヴィッツ自体も、それほど褒められたものではないのに、さらにターボでパワーアップ。それもFFなら、アクセルをラフに踏むと、それこそドッチに向いて走りだすか分からないようなトルクステアの連続をイメージしたからだ。単に、ドッカーンと速いだけで扱いにくいクルマをイメージしていた。
ピットレーンに並べられたトヨタGRMNヴィッツ ターボは、なんと3ドア。欧州向けの3ドアボディを使っている。エンジンをかけ、クラッチを踏み、軽くアクセルを踏みながらゆっくりとクラッチをつなぐ。気難しいエンジンなのだから、慎重にと思っていたら、まるで普通のクルマのように、ヴィッツ ターボはゆるゆると動き出す。
もしや、と思い、そこからイッキにアクセルを全開。思った通り、それほど速くない。速くないって言っても、最高出力:152ps(112kW)/6000rpm、最大トルク:21.0kgm(206Nm)/4000rpmもある。ノーマルのヴィッツに対して、約40〜50%もアップしているので、とてもパワフル。
ターボチューンというと、乱暴なイメージがあるが、GRMNヴィッツ ターボには、そんな雑さは一切感じることができない。過給圧もかなり低めで、トルクの立ち上がりも唐突さがなく扱いやすい。2L級の自然吸気エンジンがヴィッツに載っているイメージだ。そのため、2,000回転もエンジンが回っていれば、高めのギヤであってもスイっと速度を上げてくれるので、街乗りでも疲れないエンジンに仕上がっていた。
よく曲がるハンドリングの秘密はVSC?
驚いたのは、ハンドリング。まず、ノーマルヴィッツのグニャグニャとした電動パワステが、シャキっとなった。前輪の動きが分かりやすい。エンジニアは「セッティングを変更したくらい」という。その上、よく曲がる。とにかく曲がる。アンダーステアって、何だっけ? と、思うほど。
そのよく曲がる秘密は、横滑り防止装置(VSC)にあった。ノーマルのヴィッツは、スポーツグレードのRSでさえVSCはオプションとなっていて、安全装備のレベルはとても低い。ノーマル状態でのVSCの制御は、とにかく安全重視。少しでも危険な状態になると、車両をとにかく安全な状況に導く。そのため、スポーツドライビングには不向きなときもあり、適度なタイヤのスライドも許容しない。
GRMNヴィッツターボのVSCは、大きな変更が加えられていた。多少のスライドを許容するだけでなく、4輪を個別にブレーキをかけられる機能を生かし、的確にブレーキをかけアンダーステアを消す。曲がんないかなぁ、というような状況でもクルリと向きを変えるから不思議。こういう機能が付いていると言われなければ分からないくらい自然な感じで、自分が上手くなった勘違いをするほど。VSCをオフにすると、クルマが暴れて遅くなる。テクニックを磨くならオフなのだが・・・。サーキットのようなクローズドの場所なら、VSCのオンとオフを使い分けると楽しいかもしれない。
気難しさを感じない完成度の高さ。流しているだけでも楽しいスポーツコンパクト
この優れたハンドリングを生かしているのが、とても強固なボディだ。スポット増しされたボディがあってこそ、専用チューニングの足回りが生きる。旋回時に高Gがかかるとボディが捻れ変形することで、サスペンションが想定通りの仕事ができず、とにかく修正舵を当て続けなければいけないクルマもある。このGRMNヴィッツターボをショートコースで試したときは、そんな印象は一切感じられず、狙ったラインに一発で乗る。そもそも、5ドアではなく3ドアを選択したのもボディ剛性でメリットがあるという理由であって、マーケットのニーズは関係ないという割り切りもスゴイ。
ブレーキも安心して使える。わざわざ4穴を5穴に変更し、軽量BBSホイールとブリヂストンRE050A(215/45R17)の奥に見えるのは4ポッド対向ブレーキキャリパーを装備。ショートサーキットでは、フェードすることもなく、タッチも良好。ブレーキパッドも妙に摩擦係数が高いものではないようで、街乗りでもカックンブレーキにならない扱いやすいものだった。
今回試乗評価したトヨタGRMNヴィッツターボの優れている点は、チューニングカーなのに、まったく気難しいところがないところだ。ボディの剛性アップやVSCのリセッティング、足回りのチューニングなどなど、乗り手やシチュエーションを選ぶようなところがない。
サスペンションもシッカリロールし、ガチガチにカタメた足ではない。リヤサスのスタビリティも高いので安心感もある。シッカリとフロントに荷重をかけて、セオリー通りの運転をすればクルマが思い通りに動く。サスペンションのストロークも確保されているので、タイヤのグリップ感もつかみやすく、滑り出しのコントロールもしやすいのも特徴。
フレキシブルに、どんな走行シーンでも対応できる柔軟性。こういったチューニングは、まさにメーカーならではだ。チューニングカーは、スピードを出してガンガン攻めていないと楽しくないイメージが強いが、GRMNヴィッツターボは、ダラーっと流していても不快感はなく、普通に走っているだけでも楽しい。こういったテイストをもつクルマは、日本車では稀な存在。サーキットという特殊な環境だけでなく、一般道でもその実力をチェックしたいという気持ちになった。
未来型チューニングカーに期待!
トヨタGRMNヴィッツターボの販売台数は100〜200台程度の限定車となるそうだ。GRMNヴィッツターボのか価格は300万円以下を目指しているという。発売時期は、8月上旬。
ノーマルのヴィッツRSを購入して、ここまでチューニングするのは不可能であることを考えれば300万円というプライスは安いと思う。おもしろいのはトヨタも随分変わった。300万円のクルマを200台販売した所で、売上はわずか6億円。この売上金額では、GRMNヴィッツターボ単体の事業としては成り立たないだろう。それを良しとして、こういったスポーツモデルを作り続けることを会社として認めているのはさすがだ。効率を重視する傾向が強い現在、無駄とは言わないが、ほとんど利益が出ないビジネスに投資できる環境を作り出したのは豊田章男社長ならではの経営方針だろう。
そんなトヨタの流れを受けてか、日産もニスモブランドを復活。12月から日産マーチ ニスモを発売する。こちらは、気軽にスポーツコンパクトを楽しめる約154万円からの設定だ。
ただ、どちらにも言えるのが、ターボやら排気量アップなど、チューニングの方向性が昭和の時代から変わっていない点だ。環境とスポーツドライビングは、相反するものかもしれないが、そこにチャレンジしないと新しさは感じない。トヨタも日産も、ハイブリッドやEV技術という優れた環境技術をもつ。そういった技術を使い、走りも楽しいクルマを作って欲しいとも思う。旧式のクルマ好きだけでなく、新世代のクルマ好きを生み出すスポーツモデルに期待したい。
トヨタGRMNヴィッツターボ プロトタイプ概要
ボディーサイズ:3945×1695×1490mm
ホイールベース:2510mm
エンジン:1.5L 直4 DOHC 16バルブ+ターボ
ミッション:5速MT
最高出力:152ps(112kW)/6000rpm
最大トルク:21.0kgm(206Nm)/4000rpm
タイヤ:215/45R17(ブリヂストン ポテンザRE050A)
価格:300万円以下を目指す
発売時期:8月上旬
<エクステリア装備>
フロントバンパー/ヘッドライト/リアバンパーディフューザー/リアスポイラー/リアコンビランプ/大型ロッカーモール/専用外板(GRMNロゴ入り)など
<インテリア装備>
専用メーター/専用ステアリング/専用シフトノブ&シフトブーツ/専用スポーツシートなど
<機能パーツ類>
専用ターボチャージャー/専用サスペンション/ブリヂストン ポテンザRE050A(215/45R17)/BBS専用ホイール/フロント4ポッド対向ブレーキキャリパー/VSC専用チューニング/リアブレーキパッド変更/クイックシフト/クラッチサイズ変更を8インチから8.5インチ/ボディ補強/フロントバンパー下、大型スパッツ/専用LSDなど
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