新世代、統合電動4WD「e-4ORCE」とは?
ミュー(タイヤと路面における摩擦係数)が低くて滑りやすい雪上や氷上を走らせてみると、クルマの実力が短時間のうちに分かる。
路面が鏡のように磨き込まれ、ツルツルになる氷上の氷結路に持ち込めば、さらに能力と性格が分かりやすい。路面のミューがコンマ1まで低くなる氷上を走らせると、直線でいつものようにアクセルを踏み込み、加速しただけでクルマはのたうち回る。
コーナーでは、狙い通りに曲がることが難しい。滑りやすい路面では、20km/h程度のスピードでも減速コントロールに手を焼く。また、狙った位置に止めるのも至難の業だ。
長野県の女神湖で開催された今回の氷上試乗会の主役となるのは、日産が満を持して投入した電動駆動4輪制御技術の「e-4ORCE」である。前後2つのモーターの出力とブレーキ制御を緻密に統合制御し、クルマに求められる基本性能の「走る、曲がる、止まる」のポテンシャルを飛躍的に高めた。
最初にバッテリーEVのアリアが採用し、これに続いて発電に1.5L直列4気筒エンジンのVCターボを用いた、第2世代e-POWER採用のエクストレイルに搭載された。
注目の「e-4ORCE」は、シャシーを制御するECUによってモーター駆動を活かしやすいように統合制御を行い、4輪のタイヤのポテンシャルをフルに引き出す。
また、前後モーターとブレーキ制御を統合制御。ハンドリング性能を大きく向上させている。パワートレインを電動化して前後モーターの駆動力を制御するノートなどのe-POWER搭載のAWD(4WD)と比べても、制御規模は約1.5倍になっている。パワートレインとシャシーを統合制御したことの効果は、かなり大きいと言えるだろう。
まずは、アリアB9 e-4ORCEリミテッドを試す!
だが、理論だけでクルマの実力を評価することはできない。重要なのは、論より証拠だ。走らせて真価が分かるのである。最初にステアリングを握ったのは、アリアのAWDモデルだ。
電動4輪制御の「e-4ORCE」を採用するアリアのモーターは、フロント、リアともに最高出力が160kW(218ps)/5950〜11960rpmを達成した。最大トルクも300N・m(30.6kg-m)/0〜4392rpmのハイスペックだ。
ちなみにB9e-4ORCEリミテッドは91kWhの大容量バッテリーを積んでいるから、車両重量は2230kgにもなる。
試乗したアリアには、ブリヂストン製のスタッドレスタイヤ、VRX3が装着されていた。サイズは255/45R20と、かなり大柄だ。
緻密な制御と、制御レスポンスの早さで未体験の楽しい走りが可能!
まずは、氷上に設けられたエリアの中で旋回テストを行ってみる。滑りやすい路面の旋回では、アンダーステアと呼ばれる曲がりにくい現象が出やすい。
だが、アリアはフロントの追従性がよく、リアのモーターも出力を下げていないので上手にクルマを後押ししてくれ、操る楽しさも十分に伝わってきた。回生ブレーキを活用するeペダル(ワンペダルドライブ)もコントロール性の向上に大いに役立つ。
電子制御の味付けも上手だ。リアの滑りを無理に抑えようとしないので、狙った方向に向きを変えやすい。滑らかにステアリングを切り込んでいれば、リズミカルに曲がろうとしてくれる。
さすがに、タイヤのグリップ限界を越えると破綻し、狙ったように曲がってはくれない。だが、バッテリーEVとe-4ORCEの相性のよさ、制御の緻密さと制御レスポンスのよさには驚かされた。
路面状況が悪くなるほどe-4ORCEの実力が分かる!?
大小のコーナーが続く外周路を走っても実にコントローラブルだ。スピードを出しすぎるとアンダーステアが出てラインを外すが、欲を出さず、ペースを意識して抑えれば素直な挙動を披露した。
スラロームのステージでは、スタートダッシュも試みている。フェアレディZ並みに高性能であるにも関わらずタイヤが暴れることなく、グリップレベルを上げ、滑らかな発進を見せてくれた。
アクセルを抜いたときやブレーキング時の挙動の乱れも巧みに抑え込んでいる。パイロンを並べてのスラローム走行でも身のこなしは軽やかだ。ブレーキ制御が素早く、その介入も上手だからパイロン近くをきれいにトレースしていける。
さすがに、ペースアップしようと欲をかくと後半は挙動を乱す。だが、タイヤに余力を残している場面では大きくコースアウトすることは防げた。モーター出力を瞬時に、適切に制御して、舵の効きを確保してくれるからだ。電動モーターと電子制御技術を高度に融合したe-4ORCEの懐の深さと潜在能力の高さは、路面状況が悪くなるほど分かる。初期モデルより乗り心地がよくなっていることも付け加えておきたい。
軽さがスポーティさを強調するエクストレイルのe-4ORCE
次に試乗したのは、エンジンに電気モーターのe-POWERを採用したエクストレイルだ。最新モデルになり、AWDシステムがインテリジェント4×4からe-4ORCEへと進化した。
こちらも発進加速で暴れることなく4輪にトラクションが伝わり、ジェントルな加速を見せている。先代も後輪に最適なトルク配分を行ない、ライントレース性を高めていた。新型は、さらに制御が緻密だ。
前後輪の荷重バランスに比例した駆動力配分を素早く行い、コーナーでステアリングを切り始めると4輪のグリップ力が最適になるように上手に駆動力配分を行なってくれた。
タイヤのスリップを検知すると、狙ったラインを外さないように駆動力を上げるとともに片輪に絶妙にブレーキをかけ、前輪が逃げようとするのを巧みに抑え込んでくれるのである。レスポンスのいいモーターを使いこなしているe-4ORCEの賢い制御には脱帽だ。
挙動を乱しそうになっても、狙ったラインに乗せられるように上手に制御を行う。タイヤの能力を余すところなく引き出すことができ、ブレーキを絶妙にかけてライン修正してくれる。
アリアと同じように、ハンドリングは実に素直だ。無理なく狙ったラインに乗せることができ、コーナーをクリアできるから運転が上手くなったように感じられた。アリアほど制御の奥行きは感じられないが、アンダーステアに手を焼かないから安心感は絶大だ。
しかも、車両重量がアリアより350kgほど軽いから、スポーティに感じられる。軽やかな運転感覚は一歩上を行き、操っている感覚が強い。これも新型エクストレイルの魅力の1つに挙げてよいだろう。先代と比べてコントロール性と限界性能は大きく向上し、ドライバーは余裕を持って対処できるようになった。
素直さが際立つ軽BEVのサクラ
日産のバッテリーEVには、軽ハイトワゴンのサクラが仲間入りしている。FF(前輪駆動)車だけの設定だが、応答レスポンスの鋭いモーターの特性とeペダルによるワンペダルドライブ、そして軽量ボディの恩恵で、氷上でも安心感のある走りを披露した。バッテリーEVならではの、気持ちいい走りをビギナーでも無理なく引き出すことができる。
サスペンションはマクファーソンストラットとトーションビームの組み合わせだ。タイヤは165/55R15サイズのスタッドレスタイヤを履いていた。
トラクションコントロールとABSに加え、踏み替えることなく回生減速を行うeペダルを搭載しているからアクセルペダルの踏み加減を調整だけで車速を自在にコントロールできる。
モード切り替えで、回生の強弱を変えれば、さらにコントロール性が高まる。滑りやすい路面でも発進加速は上手だ。トラクションがかかり、滑らかな加速を披露した。足まわりもしっかりしているのでコーナーに入ったときでも優れた接地感を披露し、踏ん張ってくれる。
バッテリーをフロア下に敷き詰め、重心を低くしていることも大きく影響しているのだろう。連続するコーナーを軽やかに駆け抜けていった。
減速したいときもアクセルを緩めれば回生ブレーキが効くから、ステアリング操作だけに専念できる。
左右でミューが異なる滑りやすい路面に乗り入れてもコントロールしやすかった。パイロンを置いてのスラロームでは舵の効きが思った以上によく、狙ったラインに乗せやすい。
前後輪のバランス感覚は絶妙で、横滑りを抑えるVDC(トラクションコントロール)の介入も自然な感覚だ。リアが滑ったときの修正も上手にこなす。
ガソリン車よりコントロールできる領域が広いのがバッテリーEVのサクラの魅力であり長所だ。コーナリング中はリアを上手に滑らせて、その先でVDCを作動させて向きを変えるなど、操る楽しさをスポイルしていない制御の味付けも好印象である。氷上を走って、実力の高さを再確認した。
テクニック次第のフェアレディZ
もう1台の新顔がフェアレディZである。最高出力は405psに達し、しかも後輪駆動のスポーツカーだ。VDCをオンにしてもアクセルを強く踏み込むと、瞬間的に後輪が暴れ出す。
パワフルなエンジンを積んでいるから、丁寧なアクセルワークを心がけても気を緩めると後輪を振り出し、タイヤを空転させた。
だが、瞬時にVDCが作動し、挙動を安定方向に導いてくれる。加速はゆっくりになるが、安心感がある。コーナリングでも無茶はできない。アクセルをジワッと踏みながら曲がっていくしかないのである。リアが滑ってドリフト状態になっても何とか持ちこたえてくれた。
VDCを切ってのコーナリングでは、慎重なアクセルワークを心がけてもテールハッピーになり、リアが一気に滑り出した。
曲がりにくいからステアリング操作は忙しいし、ちょっとラフに舵を与えると挙動が変わり、ノーズを巻き込んでスピンに陥ってしまう。繊細なアクセルワークとステアリング操作が必要だ。
テクニックがあれば意識的に大きな舵を与えてクルマの向きを変えたり、オーバーステアを誘うこともできる。低い速度域でドリフトの楽しさを満喫できるが、パワフルな後輪駆動車の難しさも実感した。
e-4ORCE、恐るべし・・・
e-POWER採用のノートやキックスは4WDモデルを中心にステアリングを握っている。4WDシステムは後輪用モーターを追加したe-4WDで、e-POWERのバッテリーを使って駆動を行う。発進時に前輪が空転してトラクションがかからない場面では瞬時に後輪にも伝達トルクを送り、滑らかな発進を見せてくれた。
電動駆動のe-POWERはアクセルを閉じるとモーターによって回生を行うから、トラクションのかけ方が上手だ。VDCの介入も自然だからいい気分で運転できた。
アクセルペダルを緩めるだけで速度をコントロールできるeペダルは滑りやすい路面でも大いに重宝する。
ステアリング操作に専念することができ、減速もラクだ。e-4ORCEほど制御は緻密ではないが、巧みにグリップバランスを適正な方向に導き、グリップの回復能力も素早いと感じた。
電子制御技術の進化に驚かされのが、今回の氷上試乗会だ。滑りやすい路面でもコントロールできる領域は広く、絶大な安心感があった。しかも、スポーティな走り味も上手に演出している。e-4ORCE、e-POWER 4WDの実力、恐るべしだ。
<レポート:片岡英明>
日産アリアB6 VS マツダMX-30 EV MODEL徹底比較評価
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