日本でも扱いやすいボディサイズ
時代に先駆けて主力のゴルフにバッテリーEV(BEV)を設定したフォルクスワーゲンは、次のステップとして電動車専用ブランドの「ID.」シリーズを立ち上げた。
その最初の作品は、2020年にヨーロッパ市場に送り出したコンパクト2BOXの「ID.3」である。トータル性能の高いBEVで、日本でも売れるだろうと思ったが、発売する予定はないと伝えられた。
ワールドワイドに展開するのは、クロスオーバーSUVの「フォルクスワーゲンID.4」だ。発売を開始した2021年に「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」に輝き、2023年を前に日本に上陸している。
新型フォルクスワーゲンID.4のエクステリアは、フロントマスクにフォルクスワーゲンらしさが見られるが、サイドビューは躍動感あふれるスポーティなフォルムだ。クーペのようにピラーを強く傾斜させたリアエンドのデザインも目を引く。
全長は4585㎜と、日本の道路で運転しやすい長さに抑えている。ちょっとアップライトな姿勢で座るから、運転席からの見晴らしはいい。
全幅は1850㎜と、少しワイドと感じるが、輸入車としては平均的なサイズだ。ノーズ先端は見えないが、すぐに慣れ、車両感覚はつかみやすいと感じた。
モーターとバッテリーを効率よく収められるBEV専用の新しいアーキテクチャーであるモジュラー・エレクトリックドライブ・ツールキット(MEB)プラットフォームを開発し採用している。
2770㎜のホイールベースは、BEVならではの脚長で、前後のオーバーハングは短く抑えた。
フォルクスワーゲン、久しぶりの後輪駆動車
新型ID.4で驚かされるのは、モーターをリアに搭載していることだ。フォルクスワーゲンとしては久しぶりのリア駆動モデルである。リア駆動をベースに4輪を駆動するAWDや高性能版も、いずれは加えられるだろう。
新型ID.4のサスペンションは、フロントがマクファーソンストラット、リアはマルチリンクだ。
駆動用のリチウムイオンバッテリーは、前後輪の間に置かれ、前後重量配分の最適化を図った。そのためオープンスペースと呼ぶキャビンは広く、フロアもフラットだから気持ちよく座ることができる。
前席は余裕の広さだ。長身の人でも最適なドライビングポジションを取ることができるだろう。マッサージ機能を組み込んでいるのも魅力だ。
後席は着座位置を少し高めとしているし、パノラマサンルーフも装備されているから開放的だ。足元も広々としているから居心地がいい。収納式のセンターアームレストも重宝した。
選べる航続距離!? 2グレード設定で選びやすさをアップ
日本で発売されているのは、高性能版のProとバッテリー容量を控えめにしてリーズナブルな価格を打ち出したLiteの2グレードである。
上級のPro は、モーターの最高出力が204ps(150kW)/4621〜8000rpm、最大トルクは310N・m(30.6kg-m/0〜4392rpm)を発生し、バッテリー容量は77kWhだ。
これに対しベースグレードのLiteは、バッテリー容量を52kWhにとどめ、最高出力も170ps(125kW)/3851〜15311rpmに抑えた。ただし、最大トルクは310N・m(31.6kg-m)/0〜4621rpmと変わっていない。
ちなみに、新型ID.4の1充電による走行距離は、23年モデルではアップグレードを行い、距離を延ばしている。WLTCモードでの航続距離は、20インチタイヤを履くProが618km、18インチのLiteは435kmだ。
刺激的か? 紳士的か? フォルクスワーゲンの選択した 加速性能
新型ID.4のインテリアは、水平基調の広がりを感じさせるインパネに、コンパクトなメーターと12インチの大型ディスプレイを置いて未来感を表現した。ドライバーの前のメーターは、もう少し大きいほうが情報を確認しやすいだろう。
テスラと同じようにキーを携帯し、ドライバーズシートに変わると起動OKだ。ブレーキを踏み込み、ステアリング右側の変速レバーを回転させればクルマは動き出す。BMW i3と同じで、奥のほうに回すとD(ドライブ)、もう一度回すと回生の強いBレンジに入る。バックのRに入れるときは手前に回せばいい。レバーの頭を押せばパーキングに入り、クルマは固定される。
BEVの多くは一気にパワーとトルクが立ち上がる鋭い瞬発力が売りだ。だが、新型ID.4は上級のProでもジェントルな加速を見せ、刺激的な加速Gを感じることはない。
0-100km/hは8.5秒で駆け抜ける。この数字から分かるように、実際の発進加速はなかなかの俊足なのだ。初めて乗る人が馴染みやすいように、敢えてマイルドな味付けとした。車両重量がアリアやbZ4Xより重いこともあるが、モーターの長所を生かした滑らかで気持ちいい伸び感と優れたドライバビリティ、これがチャームポイントだ。
新型ID.4の走行モードは4つ。スポーツモードを選ぶと応答レスポンスが鋭くなり、アグレッシブな感覚が強くなる。また、回生による減速Gをアクセルペダルの強弱とモード設定によって行うことができるが、完全なワンペダルドライブではない。
これも違和感のないようにマイルドな味付けとし、停止するときはブレーキペダルを踏む必要がある。ホンダeなど、他社のBEVと同じようにパドルスイッチがあれば、さらに回生を上手に引き出すことができるようになるだろう。
BEVらしいスポーティなハンドリング
新型ID.4の静粛性は、内燃機関を積むSUVを相手にしない。空気抵抗係数0.28のエアロダイナミクスと相まって高速道路のクルージングはもちろん、加速しているときでも驚くほど静かである。リア駆動の恩恵で、最小回転半径も5.4mに抑えられた。全幅は同クラスの日本車より広いが、日常の取り回し性は悪くない。
ハンドリングは、思いのほかスポーティだ。リア駆動らしい後ろからの押し出しを感じ、気持ちよくクルマが向きを変える。SUVだが、電池を敷き詰めていることもあり、ロールも上手に抑え込んでいた。
Proはミシュラン製の20インチタイヤを履いていたが、ハンドリングと乗り心地の妥協点は高い。段差の乗り越えでもストローク感があり、ガツンとくるショックを上手に抑えている。
買い得感ある価格
円安の影響を受けながら、日本製のBEVと同等の販売価格を打ち出し、トータル性能も高かった。BEVらしい尖った楽しさを期待する人には向かないが、BEVのエントリーユーザーや素直なファミリーカーを探している人には魅力的な1台になるだろう。
快適装備だけでなく先進安全装備と運転支援システムも充実している。ベースグレードのLiteでも実質300km以上の航続距離を確保しているから、買い得感は高いと思う。コネクテッド機能が加われば、さらに魅力を増す。
<レポート:片岡英明>
フォルクスワーゲン ID.4価格
・ID.4 Lite 5,142,000円
・ID.4 Pro 6,488,000円
フォルクスワーゲン ID.4電費、航続距離、ボディサイズなどスペック
代表グレード:フォルクスワーゲン ID.4 Pro
ボディサイズ[mm]: 全長4,585×全幅1,850×全高1,640
ホイールベース[mm]: 2,770
最小回転半径[m]: 5.4
車両重量[kg]: 2,140
リヤモーター最高出力[kw(ps)]:150 (204)
リヤモーター最大トルク[N・m(kg-m)]:310(31.6)
駆動方式:RWD
一充電走行距離WLTCモード[km]: 618
電費[㎞/Wh]: 139 (約8.0㎞/kWh)
バッテリー 種類:リチウムイオン
総容量[kWh]: 77.0
サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク
タイヤサイズ前後:前235/50 R20 後255/45 R20
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