トヨタ ミライ(MIRAI)長期評価レポートVol.13 公道5,000㎞走破! 実生活で使って分かった魅力と課題とは?

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2015/11/06

 

5,000㎞走行時の平均燃費は109.7km/kg! 燃料費は53,488円、高い? それとも安い?

トヨタ ミライ(MIRAI)

公道5,000㎞を達成したメーター画像

トヨタミライ が納車され、3カ月間でちょうど5000kmの距離を走った。ひとつの区切りとなる距離を走ることができたと思う。そこで、5000km走った結果を改めてレポートしたい。

5000kmを走る間に水素を17回充填した。以前に乗っていたBMW320dクリーンディーゼル だったので航続距離が長く、5回とは言わないがせいぜい10回も給油をすれば5000kmを走れたから、それに比べるとミライは充填スタンドに足を運ぶ回数が多くなる。その気になれば満タンで1000km走れるBMW320dと比較したのでは相手が悪いが、ミライの航続距離が短いことが充填回数の多さにつながっている。

水素の合計充填量は、17回で45.58kgになった。5000kmの距離をこれで割ると燃費は109.7km/kgだったことになる。全体として高速道路を走った距離が多かったが、燃費としてはまずまずの数値であるといえよう。水素タンクは約5㎏なので、ざっくり550㎞走れる計算になる。

参考までに、この17回の水素充填に要した費用は5万3488円だった。この金額を5000kmで割ると、1km当たり10.7円かかった計算になる。またまたBMW320dと比較したので税金の安い軽油との比較なので分が悪くなるが、ざっと計算して比較してみよう。

私が乗っていた間のBMW320dの生涯燃費は17.4km/Lだった。5000km走るのに必要な軽油の量は287.4Lだったことになる。直近の軽油価格は113.4円とのことなので、これを掛けると3万2591円になる。ミライにしたことで燃料代が2万897円余分にかかった計算である。これは3カ月間の数字だから年間で換算すると8万3588円である。ミライというまったく新しい次世代車に乗れることを考えたら、この程度の負担増は十分に許容範囲である。

さすがに、クリーンディーゼル車相手だと分が悪いので、ガソリン車と比較してみよう。クラウンハイブリッド 車が良い比較対象になると思う。クラウンのハイブリッド車はJC08モード燃費が23.2km/Lで、この燃費で5000kmを走ったとすると、215.5Lのガソリンを必要とする。最近のレギュラーガソリンの価格である135.4円を掛けると2万9179円である。軽油代よりガソリン代のほうが高いがカタログ燃費で計算したので、燃費が良いために軽油よりも安上がりになる計算になった。

一般的に言われる実用燃費は、JC08モード燃費の七掛程度ということで計算すると、4万1784円になり、水素代との差額は年間で4万7000円ほどになる。水素代はハイブリッド車並みの燃料代負担ということで算出されたものらしいが、現実には水素代のほうがやや高くついている。ただし、ハイブリッド車は燃費が良いのでこういう結果になったが、ガソリン車と比べれば、水素の方が安く済んでいることは明確だ。

現在の時点ではまだ、水素は本当に商業ベースに乗っているわけではなく、わずかな台数の燃料電池車のためにわざわざ作っているような状態である。今後、燃料電池車の台数が増えてくれば水素の作り方が変わって価格も安くなることだろう。逆に現在は課税されていない燃料課税も実施されることになると考えられる。水素のランニングコストについて語るのはその先のことである。

トヨタ ミライ(MIRAI)
トヨタ ミライ(MIRAI)
トヨタ ミライ(MIRAI)
トヨタ ミライ(MIRAI)

圧倒的な静粛性。アクセル操作した瞬間に反応する力強い走行フィーリングに高評価

トヨタ ミライ(MIRAI)

 ミライに乗って走った5000kmは、全体としてとても満足できるものだった。静かで快適かつスムーズで力強い走りは特に好感が持てる。ほとんどのシーンをエコモードで走っていて、元気良く走らせたりしたことは少ないが、ワインディングなどでの走りも安定感がある。これは重量物が中心に近く、低い位置に配置されていることによる低重心化が大きい。

しかも、ボディが大きく重いのに、それに負けない走りを示してくれる点も高評価だ。ミライに搭載されるモーターの動力性能は113kW(154ps)なので、数値上は特にパワフルなものではないが、実際の走りはそれ以上のものを感じさせる。ミライの最大トルクは335Nm。モーターはトルクの立ち上がりが早いので、アクセルを踏み込むと瞬時に、この335Nmという大トルクでグイと前に出ている印象がある。追い越し加速や合流のときに、とても楽に走れるのが良い。結果的に、疲労感も少ない。

また、ミライの静粛性は非常に優れている。逆に静か過ぎるので、通常色々な音で打ち消されているはずの入ってこない音が入って来る。エンジン音や排気音がないので、最も気になるのはロードノイズだ。ロードノイズは路面とタイヤによる影響が大きいが、静かであれば静かなほど良い。これだけ静かだと、もっと、下げられるのではないかと思う。

音に関して言うと、制動時に回生ブレーキが働くときの音も大きめに聞こえる。最近、プラグインハイブリッド 車のゴルフGTE に試乗したが、回生ブレーキの音は全く気にならないレベルに抑えられていた。

トヨタ ミライ(MIRAI)

ボンネット下には、パワーコントロールユニットと走行用のモーターが収まる。水素と酸素から電気を取り出すFCスタックフロントシート下付近にある

トヨタ ミライ(MIRAI)

ミライに搭載されるモーターは、最高出力113kW(154PS)/最大トルク 335N・m(34.2kgf・m)を発揮。アクセルを踏んだ瞬間から335N・mという大トルクでミライをグイグイと加速させる

トヨタ ミライ(MIRAI)

トヨタ ミライの走行概念図。水素と酸素を反応させ電気を取り出し、排出されるのは水のみ。究極のエコカーと呼ばれる

ミライの未来は軽量・小型化がカギを握る?

トヨタ ミライ(MIRAI)

トヨタ ミライの心臓ともいえるFCスタック。水素と酸素を反応させ電気を取り出す。最高出力は114kW(155ps)。体積出力密度は3.1kW/Lを誇り、世界トップレベルの実力をもつ。2008年に登場したトヨタFCHV-advは64Lの容量から37Lへ、重量は108㎏から56㎏へとダウンサイジングされた

 今後のミライの未来を考えると、軽量・小型化が大きな課題だと思う。5mに近い4890mmの全長と1815mmの全幅は日本での使い方を考えると大きすぎる。つい最近も品川グランドホールの機械式駐車場に入れようとしたら、微妙なところで全長がセンサーに引っ掛かり、何度か前進と後退を繰り返さないとちょうど良い位置に納まらなかった。

1800mmを超える全幅も二段重ね、三段重ねの機械式駐車場を利用していると、車庫証明が取れないケースも大きい。全幅1800mmを基準にして設計されているからだ。

1533mmの全高は問題になることは少ないが、タワーバーキングの中には1500mmを基準にしている例もあるのでやはり大きすぎる。

ミライのボディの大きさは、燃料電池のシステムの大きさに起因する部分が多いのだろう。ミライというクルマをまとめるにあたって、いろいろな部分で軽量化や小型化を進めたはずだが、それでもまだ大きい。

これは、初めての市販燃料電池車ということもあって、安全マージンを十分に取っていることなども影響していると思う。今後は燃料電池スタックやコントロールユニットなどは、だんだんに小さくなっていくだろうが、現在のサイズだとクルマのサイズも前述のように大きくなってしまう。

将来的に燃料電池車を普及させようとするなら、プリウス くらいのサイズにすることも必要になる。プリウスくらいのサイズになったとしても、航続距離を考えたら水素タンクの容量は小さくできないだろう。逆に容量は大きくしたいくらいだ。水素タンクも含め、燃料電池スタックや制御系の部分での軽量・小型化が必要である。

トヨタ ミライ(MIRAI)

トヨタFCHV-advには4本の水素タンクが積まれていたが、ミライでは2本に減らされ効率化。タンク貯蔵性能は、約20%向上

トヨタ ミライ(MIRAI)

ミライの床下は、レーシングマシンのようにフラット。色々な空力パーツが用意され、高速走行時の低燃費化に貢献

トヨタ ミライ(MIRAI)

重量物はボディ下部に集約。低重心化されたのと同時に、前後の重量バンスも考えられており、上質な乗り心地と同時に高い運動性能も併せ持つ

航続距離は、まだまだ物足りないものがあるが、インフラ整備が進めば解決される?

トヨタ ミライ(MIRAI)

 

軽量化が進めば、それによってミライのもうひとつの課題である航続距離も長くなるはずだ。ミライの車両重量は1850kgもあってかなり重い。それでも元気良く走れるとはいえ、軽くなればもっと軽快な走りも可能になるはずだ。プリウス並の1300kg~1400kg台にまでしろとは言わないが、せめてレクサスHS 並の1600kg台には抑えてほしいところである。

航続距離はJC08モードで650kmという数値と実際に可能な航続距離との乖離が多いように思う。水素を満タンにしたときに表示される航続可能距離は430kmほどであることが多く、これはJC08モードの650kmに対して66%ほどの数値である。これは、完全に水素タンクを空にできないため、かなりマージンをとっているとはいえ、せめて東京から箱根を2往復できる500km以上の航続距離を正味の数字として確保して欲しいところだ。

実際に走らせて確認したように、高速巡行など条件の良い走りをするなら東京から名古屋まで軽く走れるのだが、いろいろな走りをしても500kmくらいの航続距離が確保できるともっと良い。現在の航続距離でも、一昔前の3.0Lクラスのセダン 並み。このくらいの航続距離だとしても、水素ステーションが現在のガソリンスタンドくらいあれば、なんの問題も無く乗れる。しばらくの間は、インフラ頼みであるということになる。

来年3月に発売されるホンダクラリティFC の燃料電池車は、JC08モードでミライよりも100km多く走れることを発表している。航続距離が、なぜ長いのかは発表されておらず、燃料電池の効率が高いのか、水素タンクの容量が大きいのか分からないが、当面は燃料電池車の航続距離が競争になるのは間違いない。

ただし、ミライがクラリティFCに比べ優れている点は、一般に販売したことだ。ホンダ クラリティFCは、しばらくの間、法人などのリースに販売に限られるという。こうした売り方を比べるだけでも、トヨタはミライの完成度にかなり自信があるということにもなる。

このほか、すでに書いたことだが、足踏み式バーキングブレーキを電気式にし、クルーズコントロールを全車速対応型にし、プリクラッシュセーフティシステムをトヨタセーフティセンスPにすることなどが望まれる。現状のミライの仕様では、安全装備面がやや未来感覚に欠け物足りなさを感じる。

トヨタ ミライ(MIRAI)
トヨタ ミライ(MIRAI)
トヨタ ミライ(MIRAI)

トヨタ ミライ価格、航続距離、スペックなど

■トヨタ ミライ価格:7,236,000円

代表グレード トヨタ ミライ(TOYOTA MIRAI)
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) 4,890×1,815×1,535mm
ホイールベース[mm] 2,780mm
トレッド前/後[mm] 1,535/1,545mm
車両重量[kg] 1,850㎏
最小回転半径[m] 5.7m
FCスタック型式 FCA110
FCスタック最高出力[kw(ps)] 114(155)kw(ps)
高圧水素タンク容量[L](2本) 122.4L(前方60.0L/後方62.4L)
モーター最大出力[kw(ps)] 113(154)kw(ps)
モーター最大トルク[N・m(kg-m)] 335(34.2)N・m(kg-m)
駆動用バッテリー ニッケル水素電池
容量[Ah] 6.5Ah
サスペンション(フロント/リヤ) ストラット式コイルスプリング/トーションビーム式コイルスプリング
最高速度(㎞/h) 175㎞/h
一充電走行距離距離[㎞] 約650㎞(JC08モード走行パターンによるトヨタ測定値)
定員[人] 4人
税込価格[円] 7,236,000円
発表日 2014年11月18日
レポート 松下宏
写真 トヨタ/編集部

コメント

いつも楽しく読ませて頂いております。私も昨年の4月にミライが納車されました。東京トヨタ井草店で購入しました。民間では一番納車らしいです。一年程乗った感想ですが、高速安定性が悪く、110キロでふらつき、横風にハンドルを取られます。タイヤなども交換しましたが変わりません。私のミライだけでしょうか?国産車はこの程度なのでしょうか。お忙しい所すみませんがお返事おまちしています。
by 加藤俊行
2016/05/22 14:54

■ミライの高速走行安定性について

ミライが昨年の4月に納車とは、私よりも1~2カ月早いじゃないですか。凄いで
すね。

私のミライは、条件の許すところでは100km/hを大きく領域での走りも試してい
ますが、走行安定性に不満を感じるようなシーンはありませんでした。
同様にトヨタ自動車の広報車両に試乗しても安定性に不満を感じるシーンはあり
ませんでした。

ミライは一般のクルマに比べると、重心高の低さからむしろ走行安定性に優れる
クルマという印象を持っています。

おっしゃるふらつきがどのようなものか、そのクルマに乗っていないので分かり
ませんが、ちょっと理解しがたいところです。

全高がやや高めなので横風の影響を受けやすい面があるかも知れませんが、それ
だってミニバンなどに比べたらずっと良いです。

by 松下 宏
2016/05/28 11:24

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