サスペンションのグレードダウンでコストダウン?
トヨタ カローラクロスの資料にひと通り目を通した後、妙に懐疑的な気持ちになった。と、いうのは、リヤサスペンションがトーションビーム式だったからだ。
カローラクロスは、GA-Cプラットフォーム(車台)を使っている。このプラットフォームは、カローラスポーツやカローラツーリング、C-HRなどにも採用されている。今まで、このGA-Cプラットフォームを使う国内モデルすべてが、リヤサスペンションにダブルウィッシュボーン式を使っているのだ。
端的に言えば、カローラクロスの使うトーションビーム式は、ダブルウィッシュボーン式と比べると、乗り心地や高い速度域での操縦安定性にやや劣る傾向にある。
その代わりに、トーションビーム式はリヤサスペンションの部品点数が大幅に減りコストダウンにもつながるメリットがある。
「もっといいクルマづくり」はどうなった?
懐疑的になった理由は、カローラスポーツの試乗まで遡る。カローラスポーツは、全グレードがダブルウィッシュボーン式。その走りの良さや乗り心地の快適さに驚いた。従来、同じCセグメント車のオーリスなどは、上級グレードにはダブルウィッシュボーン式、廉価グレードにはトーションビーム式と使い分けていた。
エンジニアに色々と話を聞く中で、豊田章男社長が提唱する「もっといいクルマづくり」を進めていく中で、走行性能面で物理的にもグレードダウンしてしまうトーションビーム式は使わない方向性で動いていると聞いた。
確かに、カローラスポーツの前に登場したいたプリウスやC-HRもダブルウィッシュボーン式だった。それを聞いて、コストダウンを最優先するのでなく本気で「もっといいクルマづくり」にこだわっているのだと実感したのだ。
それなのに・・・。コストダウンが優先されたのか? それが、カローラクロスの資料を見た直後に懐疑的に感じた理由だ。
低・中速域での乗り心地はクラストップレベル?
試乗したのは、カローラクロス1.8LハイブリッドのFF(前輪駆動)車だ。走り出して5分で驚く。トーションビーム式のリヤサスペンションなのに、路面の凹凸によるありがちなゴトゴトゴツゴツ感がない。むしろ、乗り心地がよい。
このクラスでは、トーションビーム式のリヤサスペンションを使うことは珍しいことでないが、カローラクロス並みの乗り心地に仕上げたCセグメントの国産SUVは数少ない。トップレベルの仕上がりだ。
その理由は、ボディ取付けブラケット部分にあった。このブラケット部分を高剛性化。さらに、微振動に対応した柔らかめのブッシュを使用し、サスペンションのバネを柔らかくし乗り心地を向上させていた。
このサスペンションだけでなく、タイヤはコンフォート系の高級タイヤであるミシュランPRIMACY 4を装着した。このタイヤは、カーブなどでも安定感があり静粛性も高く、快適な乗り心地に貢献している。
試乗会場となった横浜みなとみらい地区では、それほど荒れた道は少ないのだが、あえていつもテストする大きな凹凸が連続してある道を通過。さすがに、こうした道ではトーショウビーム式では厳しいようで、ドンドンという衝撃とバタバタとしたリヤサスペンションの動きになった。こうした道は、非常に少ないのでカローラクロスの低中速域での乗り心地は、とても快適といえる。
街中では、快適な乗り心地を披露したカローラクロス。高速道路でも意外なほど気持ちよく走る。バネが柔らかめなのに、ロール量もさほど大きくなく安定している。
かなり速度を上げ、それなりに横Gドライバーに加わるようなスポーツドライビングになると、ロールも大きく横荷重に対してややグニャとした曖昧感のある走りに変わるのは仕方がないところ。C-HRほどフラットで安定感は無いものの、走りの質についてそれほどこだわりがないのであれば、これで十分といえるレベルだ。
良品廉価がコストダウンの理由?
リヤサスペンションがダブルウィッシュボーン式からトーションビーム式に変更されたのは、コストダウンが大きな要因であることは間違いない。そこで、問題になるのは、コストダウンしたのにC-HRと同等程度価格であるならば「ちょっと儲け過ぎでは?」と、誰もが思うはずだ。
しかし、カローラクロスの価格は1.8Lガソリン、G Xグレードで驚きの 1,999,000円だ。装備は異なるものの、1クラス下の1.5Lガソリン車であるヴェゼルのエントリーのGグレードより30万円弱も安価。
コストダウンしながら、一定の質を担保し、価格を大幅に安価にしたのであれば、十分に納得できる。良品廉価、それがカローラクロスの大きな目的のひとつであると理解できる。
ただし、歩行者検知式自動ブレーキなどを含む予防安全装備パッケージ「トヨタセーフティセンス」の機能ダウンは、関心しない。
2020年8月の改良でC-HRは、トヨタセーフティセンスをアップデート。昼夜の歩行者と昼間の自転車、そして交差点内の右左折時の歩行者、右折時の車両も検知し被害軽減・衝突回避を行う。かなり新しい世代のトヨタセーフティセンスで、クラストップレベルの機能を誇る。
ところが、C-HRの改良から1年以上も後となる2021年9月に登場したカローラクロスのトヨタセーフティセンスは、旧世代のものとなっているのだ。自動ブレーキは、昼夜の歩行者と夜間の自転車のみで、交差点内の機能はない。新型車が旧タイプのトヨタセーフティセンスとうのはいかがなものか?
「カーボンニュートラルに全力で取り組む」はずでは?
1.8Lハイブリッドは、システム出力122psで26.2㎞/L(FF、WLTCモード)という超低燃費性能を誇る。このハイブリッドシステムは、とくにパワフルでもスポーティでもない、非常に実用的なタイプ。淡々とフツーに走る。このフツーが、ある意味頼もしい。カローラクロスの車重であれば、とくに力強さという面では不満はない。昨今、これだけガソリン価格が高騰すると、ハイブリッド車の超低燃費性能は大きなメリットだ。
ただ、最新のヴォクシー&ノアに搭載された新開発の1.8Lハイブリッドは、よりパワフルになっていた。従来の1.8Lハイブリッドシステムは、ヴォクシー&ノアでは非力感があったが、よりモーター出力がアップされ、力強く走るようになった。カローラクロスもマイナーチェンジ後などに、このパワーユニットが搭載されれば、さらに良いクルマになると感じた。
この1.8Lハイブリッドの他に、1.8Lガソリン車も設定されている。この1.8Lガソリンエンジンが、どうにも困ったちゃんだ。なんと、相変わらずのアイドリングストップ機能が付いていない仕様となった。
トヨタは「カーボンニュートラルに全力で取り組む」と声高に宣言。さらに、2030年にはEV(電気自動車)を350万台売るとしている。こうしたアピールは、環境問題に対して積極的と思える。
ところが、未だ国内ではアイドリングストップ機能が付かないモデルを売る。せっかく高性能はハイブリッドやEVでCO2減に貢献しては、これでは意味がない。もはや、言動不一致だ。こうしたことを考えると、カローラクロスの購入を考えるのであれば、ハイブリッド車一択ということになる。
<レポート:大岡智彦>
トヨタ カローラクロス価格
<ガソリン車 FFのみの設定>
・G 2,240,000円
・S 2,400,000円
・Z 2,640,000円
<ハイブリッド車>
・G FF 2,590,000円/E-Four 2,799,000円
・S FF 2,750,000円/E-Four 2,959,000円
・Z FF 2,990,000円/E-Four 3,199,000円
トヨタ カローラクロス燃費、ボディサイズなどスペック
代表グレード トヨタ カローラクロス ハイブリッドZ E-Four
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) 4,490×1,825×1,620
ホイールベース[mm] 2,640
トレッド前:後[mm] 1,560:1,560
最低地上高[mm] 160
サスペンション 前:マクファーソンストラット 後: ダブルウィッシュボーン
車両重量[kg] 1,510
総排気量[cc] 1,797
エンジン型式 2ZR-FXE
エンジン種類 直4 DOHC16バルブ
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] 98(72)/5,200
エンジン最大トルク[kg-m(N・m)/rpm] 14.5(142)/3,600
フロントモーター最高出力[ps(kw)] 72(53)
フロントモーター最大トルク[kg-m(N・m)] 16.6(163)
リヤモーター最高出力[ps(kw)] 7.2(5.3)
リヤモーター最大トルク[kg-m(N・m)] 5.6(55)
動力用主電池 ニッケル水素
WLTCモード燃費[㎞/L] 24.2
ミッション 電気式無段変速機
最小回転半径[m] 5.2 m
タイヤサイズ 225/50R18
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