クラウンらしさって何ですか?
歴史ある「クラウン」という車名の呪縛から、逃れられないのか? と、試乗後エンジニアとの懇親時に、そう強く感じた。
と、いうのも、とにかくエンジニアから何度も繰り返されたのが「クラウンらしさ」という言葉だ。別に「クラウンらしさ」を追求するのが悪いという話ではない。
そもそも、クラウンはFR(後輪駆動)のセダンから、FF(前輪駆動)ベースのクロスオーバーになった時点で、クラウンという名は同じものの「まったく違うクルマ」になっているのだ。かなり無理がある。何もそんなに「クラウンらしさ」をアピールしなくても・・・、と感じていた。
従来のクラウン顧客が逃げないようにしたい、というのも分からないでもない。でも、まったく違うクルマなのだがら、堂々と新生クラウンクロスオーバーをアピールすればいい。
結論から言えば、新型クラウンクロスオーバーは、想像を超えた完成度だった。顧客の想像さえも超えているはずのクルマなのだから、従来のクラウン顧客も十分納得してくれると感じる。
攻めのデザイン!
さて、従来のクラウンデザイン。14代目、15代目クラウンは、トヨタが得意とするマーケットインなデザイン。欧州プレミアムブランド車を意識した大きなグリルと押し出し感で、迫力あるオラオラ系に仕上げていた。
これはこれで、高く評価されていて、従来のクラウン顧客からも支持されてきた。14代目クラウンのフロントフェイスは、少しやり過ぎ? と、感じたが、マーケットでは絶賛され、比較的若い年齢層の顧客がクラウンを選んだという。
顧客はどんなデザインを求めているのか? トヨタデザインは、こうしたニーズの理解が早い。しかも、徹底してマーケットインなデザインに徹することができる。その結果、アルファードやヴォクシーといったモデルは、マーケットで絶賛されている。
そんな、トヨタなのだが、16代目新型クラウンクロスオーバーでは、かなりプロダクトアウトなデザインにチャレンジした。
エンジニアの方々は、クラウンらしさにこだわったというものの、外観デザインは従来のクラウンらしさなど微塵も感じさせない。欧州プレミアムブランドモデルのように、グリルの大きさやカタチなどにはこだわらない。純粋にカッコよさにこだわった。
ザックリ言えば、クーペのようなルーフとSUVらしい力強い面の張り、スポーツカー並みの低く構えたフロントフェイス、トレンドを押さえた一文字のリヤコンビネーションランプと、色々な要素がインテグレートされている。デザイン的に理屈はどうであれ、新型クラウンクロスオーバーはカッコいい。
こだわったのは「ツライチと大径ホイール」
そのカッコよさを出すため、新型クラウンクロスオーバーでは、タイヤの四角さとツライチに執着した。なんだ、それ? と、思う人も多いが、クルマのカッコよさは「大径ホイールにシャコタン、ツライチ」が基本。
車高を下げ、タイヤとフェンダーの隙間を減らし、フェンダーとタイヤもしくは、ホイールのリムが面一(ツライチ)にすると、見た目が格段とよくなる。多くのデザイナーが、デザインスケッチを描くと、ほとんど「大径ホイールにシャコタン、ツライチ」になっていることからも分かる。だが、多くのモデルが、色々な理由があり、こうしたデザイン要素の優先順位が下げられてきた。
ところが、新型クラウンクロスオーバーは、クロスオーバーモデルなのに、トヨタ車の中でもフェンダーとタイヤの隙間が小さく、21インチホイールを履くことが前提。フェンダーのフランジを無くし、タイヤとフェンダーの接触リスクを下げツライチにしやすいようにした。タイヤの角も立てて、さらにツライチに見せている。
ただ、21インチホイールはよいけれど、タイヤが太すぎると燃費や操縦安定性にも影響が出る。そこで、新型クラウンクロスオーバーでは、21インチホイールなのに225/45という細身のタイヤを履いて最適化している。
ツライチがそんなに大事なのかよ? と、思うかもしれないが、欧州プレミアムブランドモデルもかなり気にしてデザインしている。だからこそ、新型クラウンクロスオーバーのシルエットやスタンスが、従来のトヨタ車とは異なるのは「ツライチ」にこだわったからだといっても過言ではない。
質感が物足りないインテリア
そんな外観デザインに対して、インテリアデザインは想像の範囲を超えていなが「よくできたデザインだ」。FCVのミライに、なんとなく似ているようにも感じる。水平基調のダッシュボードで広さを感じさせたり、機能部分を集約するなど使い勝手もよい。だが、おおっという驚きがないのが残念だった。
メーターも要素が多過ぎてビジーな印象。もう少し、情報を整理し見やすくしてもらうとよい。とくに、文字が小さいと中高年で老眼だとピントが合いにくい。
また、ソフトパッドなどを使い上質感を出しているのだが、所々、プラスチック部分の質感がやや物足りない。クラウンらしさというのであれば、こうした細かい部分の質感を上げて欲しいところだ。まぁ、その分、先代クラウンよりも価格が435万円からと大幅に下がっているのだから、納得してよ、ということなのかもしれない。
新型クラウンクロスオーバーの後席は、とにかく広かった。後席が広くなったら、クラウンらしくないだろう! なんて、冗談のひとつでも言いたくなるくらい広い。足が組めるほど。これは、やはりFF(前輪駆動)系のプラットフォームGA-Kを使った恩恵だ。後席の居心地は、なかなか良好だった。
良くも悪くも無味無臭なパワーユニット
試乗したのは、新型クラウンクロスオーバーG アドバンスドだ。お馴染みの直4 2.5Lハイブリッドを搭載し、リヤにモーターを設置した4WDであるE-Fourだ。新型クラウンクロスオーバーは、全車E-Fourとなる。
この2.5Lハイブリッドのシステム出力は、234ps。燃費は22.4㎞/L。全長4,930mmという大柄なボディのモデルとは思えないほどの超低燃費性能を誇る。この超燃費性能は、もはや圧倒的といえるものだ。
駆動用バッテリーは、ニッケル水素電の高性能バージョンであるバイポーラ型を使う。リチウムイオンバッテリーを使えば、さらに低燃費化できると思うのだが、そこはやはりコストとのバランスなのだろう。
この2.5Lハイブリッドシステム、走り出すと良くも悪くも無味無臭。スルスル滑らかに走り、いつの間にかエンジンが始動していて、静粛性も高い。高性能なのに存在感を消していて、出しゃばる感じがない。
高速道路でフル加速してみても、街中を流しているときと同じ。坦々と速度を上げ自らの役割を果たす。ドラマチックとか躍動感といった感性に訴えかけるものはない。
システム出力は234psあるが、車重が1,770㎏と重いので、パワー感としては必要十分といった印象。速くもなければ遅くもない感じだ。
このパワーユニットの評価は難しい。ドライバーが何を求めているのかにより、結果が異なる。クルマの運転を楽しみたいというのであれば、物足りなさを感じる。だが、快適な移動が重要というのであれば、何の不満もなく低燃費で静粛性も高くスムースなので、よい道具となるからだ。
デカいですが、小回り得意です。自然なフィールのDRS
こうしたよい道具感は、ハンドリングや乗り心地にも言える。新型クラウンクロスオーバーのGA-Kプラットフォームは、RAV4やハリアー、カムリにレクサスNXとミディアムサイズのモデルに使われている。新型クラウンクロスオーバーでは、主にリヤ周りが専用として開発された。
リヤサスペンションは、マルチリンク式となり、レクサスNX以上のポテンシャルをもつ形状に変更。ハリアーなどと同じ54ps&121Nmという出力をもつリヤモーターが配置されているものの、DRS(ダイナミック・リヤ・ステアリング)が追加されている。
DRSは、リヤタイヤが走行状況に応じて逆位相もしくは同位相に動く仕組み。車両をよりスムースに曲げたり、安定させたりする役割を担う。この機能、なかなか自然なフィーリングで違和感がなかった。山道では、大きなボディサイズながらよく曲がり安定しているが、リヤタイヤが動いている気配は感じ取れなかったほど。
新型クラウンクロスオーバーの全長は4,930mm、ホイールベースは2,850mmと長い。これだけ大きな車体だと、小回りは苦手なはず。しかし、DRSによりリヤタイヤが逆位相に動くことにより、最小回転半径は5.4mとCセグメントのコンパクトカーに近い数値になっている。大きな車体なのに小回りが得意なので、狭い駐車場が多い日本ではありがたい機能だ。
このDRSも、ハイブリッドシステムを同じで、出しゃばった感じが一切ない。まさに、優れた技術は黒子で、完成度の高い道具感に徹していた。なんだか、もったいないような気もする。
トヨタブランド、最良の乗り心地!?
そして、新型クラウンクロスオーバーの乗り心地。新開発されたマルチリンクサスペンションの恩恵もあり、乗り心地は快適。基本的にソフトな味付け。フワフワした感じの乗り味は、従来のクラウンロイヤルをイメージした乗り味だと、エンジニアは語った。
高速道路では、まるで滑るように走っていく。同じGA-Kプラットフォームを使う高級SUVであるハリアーやレクサスNXをも超える快適な乗り心地だ。トヨタブランドで、最も乗り心地がよい。
ただ、こだわりの21インチホイール装着車は、カッコいいが少しタイヤのゴツゴツ感があった。19インチホイール装着車は、ゴツゴツ感が少なく快適。乗り心地重視なら19インチホイール装着車がお勧めだ。
そして、ソフトな仕様のサスペンションということもあり、山道では大きく車体が傾く。DRSにより、安定してよく曲がるのだが、車体の傾きをもう少し抑えて欲しい。そんな話をエンジニアにしてみたら、「それは後から出るクラウンスポーツの役割です」とのことだ。
新型トヨタ クラウンクロスオーバー(2.5Lハイブリッド)のお勧めグレードは?
さて、新型クラウンクロスオーバーのグレード選び。デザイナーは、21インチホイールにこだわった。そのこだわりを感じたいのであれば、やはりお勧めは21インチホイールを履いたG系アドバンストレザーパッケージかレザーパッケージになる。
GとXグレードは、ブラインドスポットモニターや、パーキングサポートブレーキ、パワーシートなど、高級車であれば標準装備が当り前と思える装備がオプション設定なので、選択肢から外したい。
こうなると、選択肢はG系のアドバンストレザーパッケージかレザーパッケージのどちらかということになる。装備差は置くだけ充電、パノラミックビューモニター、デジタルキー、パワートランクリッド、イージークローザー、ドライブレコーダーなど。価格差は、30万円。この差で、上記の装備が付いてくるのであれば、Gアドバンストレザーパッケージ車がお得でお勧めだ。
新型クラウンクロスオーバーのリセールバリューは?
新型トヨタ クラウンクロスオーバーは、発売から約1ヵ月で2.5万台を受注したというのだから、販売は絶好調。しかし、足元はコロナ禍における半導体と部品不足は深刻で、未だ先が読めない状況。すでに、新型クラウンクロスオーバーのHP上では、超長期納期のため販売店へ要問合せとなっている。
こうした状況を読んで、転売目的と思われるクラウンクロスオーバーの未使用車が中古車店に出回ってきている。新車価格より100万円以上の高値で売られている状況だ。
まだ、流通台数が少ないので、憶測だがしばらくの間、新車価格より100万円以上高値が付くのではないかと考えらえる。
これだけ強気の中古車価格が続けば、しばらくの間、新型クラウンクロスオーバーのリセールバリューは高値となるのは確実。生産が通常状態に戻るまでは、リセールバリューが下がることがないかもしれない。また、元々クラウンはリセールバリューが高いモデルであることに加え、人気のクロスオーバー車なので、極端にリセールバリューが下がる心配はないだろう。
<レポート:大岡智彦>
トヨタ クラウンクロスオーバー価格
■2.4Lターボ、デュアルブーストハイブリッド(E-Four Advanced)
・CROSSOVER RS 6,050,000円
・CROSSOVER RS“Advanced” 6,400,000円
■2.5Lハイブリッド(E-Four)
・CROSSOVER G 4,750,000円
・CROSSOVER G“Advanced・Leather Package” 5,700,000円
・CROSSOVER G“Advanced” 5,100,000円
・CROSSOVER G“Leather Package” 5,400,000円
・CROSSOVER X 4,350,000円
トヨタ クラウンクロスオーバー燃費、ボディサイズなどスペック
代表グレード: CROSSOVER Gアドバンスト レザーパッケージ
ボディサイズ[mm]: 4,930×1,840×1,540
ホイールベース[mm]: 2,850
最低地上高[mm]: 145
最小回転半径[m]: 5.4
車両重量[kg]: 1,790
総排気量[cc]: 2,487
エンジン種類:A25A-FXS型 直4 DOHC
エンジン最高出力[kW(ps)/rpm]:137(186)/6,000
エンジン最大トルク[N・m(kg-m)/rpm]: 221〈22.5〉/3,600-5,200
フロントモーター最高出力[kw(ps)]: 88(119.6)
フロントモーター最大トルク[N・m(kg-m)]:202(20.6)
リヤモーター最高出力[kw(ps)]: 40(54.4)
リヤモーター最大トルク[N・m(kg-m)]:121(12.3)
ミッション: 電気式無段変速機
WLTCモード燃費[km/l]: 22.4km/l
バッテリー 種類:ニッケル水素
サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク
タイヤサイズ:225/45R21
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