「マルチソリューション」って何だ?
2019年の東京モーターショーに出品された時から注目を集めていたマツダMX-30の本命モデルが、ついに正式発売された。
言うまでもなく、これからのクルマ社会に必要とされるバッテリーEV(電気自動車)である。ご存じのように、世界中がCO2(二酸化炭素)を削減するカーボンニュートラルの実現に向けて動き出した。
こういう時代になると、電動化のメカニズムを加えることなしに自動車は生き延びることはできない。
多くのメーカーは電動化に舵を切ったが、マツダも地球温暖化に強い影響を与えるCO2排出量の低減に向けて動き出した。その戦略は「マルチソリューション」だ。生産した後のCO2削減だけにとどまらず、ライフサイクル全体における環境負荷を把握し、その影響を評価する開発方針を打ち出した。
この考え方に基づいて開発されたのが、マツダMX-30に加えられたEVモデルである。
2022年には、ロータリーエンジン搭載のMX-30が?
2020年秋に発売したMX-30のマイルドハイブリッド車と、ルックスやサスペンションなどの基本は変わらない。ただし、EVは新世代車両構造技術の「スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー」に電動化技術の「eスカイアクティブ」を組み合わせ、クロスメンバーをバッテリーケースの中に組み込んだ。環状構造にも手を加え、マイルドハイブリッド車より剛性を高めた。
注目のeスカイアクティブは、モーター、高電圧バッテリー、インバーター、DC-DCコンバーター、AC普通充電器などの高電圧部品などで構成されている。リチウムイオンバッテリーは、パナソニック製だ。搭載容量は35.5kWhと、最新のEVとしては少なく感じる。これは環境負荷を抑えるためと車両重量を増やさないためだ。
また、22年に発電用のロータリーエンジンを加えたレンジエクステンダーの販売を予定していることも、少なめのバッテリー容量にした理由のひとつだろう。
航続距離は、やや短めの256㎞
前輪を駆動する交流同期モーターの最高出力は107kW(145ps)/4500〜11,000rpmである。最大トルクはCX-30が搭載する1.8Lのディーゼルターボと同じ270N・m(27.5kg-m)だ。
ただし、発生回転は0〜3243rpmと、低い回転に抑えられた。ちなみに1充電の走行距離は、WLTCモードで256kmと発表されている。ホンダeに近い航続距離で勝負に出た。
MX-30に設定されたEVモデルは、驚くほど自然な乗り味だ。多くのEVは、モーターの特性を生かし、アクセルを踏み込むと一気にパワーが立ち上がり、トルクも瞬時にグッと盛り上がる。
音もなく痛快加速と強いGを感じさせられが、MX-30は違った。気ぜわしさのない、上質な加速感だ。もちろん、EVだから段付きのないシームレスな加速と直線的な伸びを存分に楽しめる。
違和感のないドライブフィール
特筆したいのは、マツダらしい人馬一体の気持ちいい加速感と滑らかさだ。マツダがこだわり続けている「躍度」のチューニングが絶妙で、意のままの軽やかな加速を見せつけた。
初めてステアリングを握っても違和感なく運転できる。すぐに体に馴染み、一体感のある運転感覚が得られるから運転がうまくなったように感じられるのだ。これがMX-30 EVモデルの魅力と言えるだろう。
静粛性も先にデビューしたマイルドハイブリッド車を相手にしない。加速した時も高い静粛性を実現しているし、不快なノイズと振動も上手に封じていた。
何かと便利な回生ブレーキ用パドルシフト
重宝したのが、ステアリング裏側の左右に取り付けられた、回生の強弱を変えられるパドルシフトだ。アクセルを緩めた時にバッテリーに充電する回生ブレーキの強さをドライバーの意思によって変えることができる。
回生減速度を強めたい時は、左側のパドルを引けばいい。右側のパドルを引くと、回生は弱まり、加速度が高まるから高速走行や上り坂では大いに役に立った。左右2段階ずつあり、5段階に調整できる。
試乗した時の後半には、パドルシフトの使い方を完璧にマスターした。使いこなせると、実に便利だ。
MX-30のEVモデルも、左側のパドルを上手に使えば、他のEVのようにワンペダルドライブを楽しめた。だが、Dレンジに入れたままのおまかせの走りでは体のバランスを取りやすい止まり方にこだわっている。
だから、初めてステアリングを握った人でも自然に、違和感なく運転できるはずだ。同乗者も安心感を得るだろう。
EVでも走りにこだわったMX-30
高く評価したいのがダイナミック性能だ。サスペンションは、マイルドハイブリッド車と同じで、マクファーソンストラットとトーションビームの組み合わせを受け継いでいる。
試乗車のタイヤは215/55R18のBSトランザだった。ただし、前述したようにバッテリーケースに合わせてプラットフォームを最適化し、フロアなどの剛性を高めている。また、「エレクトリックGベクタリング・コントロール・プラス」を採用し、操舵した時にモーターのトルクを最適に制御し、リニアリティを向上させた。
電動パワーステアリングは、スッキリとした操舵フィールだ。また、e-GVCプラスの採用により、ゆっくり切った時も早く切った時も狙ったラインに乗せやすい。
コントロールできる領域も広く、気持ちいいコーナリングと自然なロール感を身につけている。車両の運動制御は巧みで、揺れの収まりは速やかだし、路面のいなし方もうまかった。
意のままの優れたコントロール性に加え、乗り心地も上質だ。ブレーキ性能に加え、踏力フィーリングも自然な感覚だった。
高い残価率を保証するプランも
走りの洗練度が高いが、電費はそれなりの数値にとどまっている。撮影と街中を中心とした試乗での電費は4.1km/ KWhだ。実際の航続距離は150km前後だろう。
2度目は高速道路を含め、50kmほど丁寧な運転を心がけて走っている。この時の電費は、エアコンを作動させて6.7 km/ KWhだった。航続距離が心配、という人はレンジエクステンダーの登場を待ったほうがいいだろう。
マツダ初の量産EVは、予想以上の仕上がりを見せ、上質な走りを楽しませてくれた。ちなみにMX-30 EVモデルは3つのグレード設定。日本での販売計画台数は年間500台だ。
このEVには、残価設定型のクレジットプラン(マツダスカイプラン)が用意され、従来のエンジン車と同等の残価率を設定している。6年プランでも残価率は30%とした。このリセールバリューの高さは、EVビギナーにはうれしい配慮だろう。
また、購入に不安のある人のためにEV生活を体験できる1Dayモニター試乗も用意している。それだけではない。下肢に障害を持つ車椅子ドライバーのために、ハンディキャップを克服するMX-30EVモデルの自操式自立支援車を開発中だ。MX-30は、EVを加えたことによって魅力を大きく広げた。
<レポート:片岡英明>
マツダMX-30 EV-MODEL電費、ボディサイズなどスペック
ホイールベース (mm) 2655
乗車定員 (名) 5
車両重量 (kg) 1650
タイヤサイズ 215/55R18
最小回転半径 (m) 5.3
サスペンション (フロント/リヤ) マクファーソンストラット式/トーションビーム式
モーター最高出力 (kW<PS>/rpm) 107〈145〉/4,500-11,000
モーター最大トルク (N・m<kgf・m>/rpm) 270〈27.5〉/0-3,243
駆動用バッテリー種類 リチウムイオン電池
WLTCモード 航続距離(km) 256
マツダMX-30 EV-MODEL価格
EV 4,510,000円
EV Basic Set 4,587,000円
EV Highest Set 4,950,000円
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