ホンダS660(エスロクロクマル)試乗記・評価の目次
とても寛容でコントロールしやすいミッドシップだ!
ホンダS660のエンジンに関しては、少々物足りなさを感じたのだが、ホンダS660 の美点はハンドリング性能にあった。試乗する前は、ミッドシップ車にありがちな、いつスピンするか分からない繊細なハンドリング性能と予想したが、コーナーをひとつ曲がっただけで、そうしたスポーツモデル ではないことがすぐに分かる。
ステアリングの切り始めの動きは、想像以上に穏やか。あまりクイックな特性だと、一般道では落ち着きが無くなり、真っ直ぐ走らないクルマになる。そういうクルマは多い。だが、S660はミッドシップスポーツカーという記号性とは裏腹に、寛容な面を見せてくれた。これならサーキットだけでなく、一般道でも十分に楽しめる確信。ハンドリング特性は、前後重量配分45:55という重量配分もあり、実に素直でリニアな反応を見せた。
この素直なハンドリング性能を支えているサスペンション関連も、いい意味で裏切られる。サーキット走行では、驚くほど柔らかく感じるのだ。それも、コーナーではゆっくりとロールする。クルマの前後左右の動きがゆっくりなので、加重移動の感覚がつかみやすく運転しやすい。この運転のしやすさは、初心者からエキスパートまで、どんなタイプのドライバーも受け入れる懐の深いものだ。
また、S660はコーナーリング時にスムースに曲がれるように、軽自動車初となるアジャイルハンドリングアシストが装備された。これは横滑り防止装置(VSA)の機能を使ったもので、コーナー内側の車輪に軽くブレーキをかけ、クルマをよりスムースに曲げる。実際、少々荒っぽい運転をしても、ハンドルを切ればスイっと向きをかえ安定方向の姿勢変化となる。ある意味、誰でもハンドルさえ切れば上手く曲がれる機能ともいえる。上手く荷重移動させ、アクセルコントロールでクルマの向きをコントロールしたいなどと考えている上級者を目指すドライバーにとっては、ちょっと余計なお世話にもなる。速くは走れるが、上手くはならない感じがあり、ON&OFFスイッチがあればいいと感じた。
ケツが滑ればいいってもんじゃない! 軽自動車とは思えない高い操縦安定性
ミッドシップは、よほどの上級者でないと、タイヤのグリップが失われると即スピンというピーキーなイメージがあるが、ホンダS660はそんなモデルとはまったく違う。今回はドライ路面の上に、専用開発された前後異径(フロント:165/55R15、リヤ:195/45R16)のタイヤであるアドバン ネオバAD08Rが装着された。このタイヤは、かなりハイグリップ。性能が高いのと同時に、リヤサスペンションのスタビリティも高いため、今回のサーキットではリヤタイヤを滑らせることは容易ではなかった。
同じサーキットで、リヤタイヤを滑らせることにこだわったスポーツカーに乗ったことがあるが、このクルマはいつでもどこでもズルズルして、気が休まることはなかった。そうしたクルマと比べると、S660のグリップ力は、もはや軽自動車 としての視点では語っても意味がないくらい高いポテンシャルを感じた。こうしたハンドリング性能を確保できたのも、高剛性ボディが大きく貢献している。こうなると、もっとパワーを! と、思ってしまうほどだ。
ホンダS660には、軽自動車初となる6MTが搭載された。このMTのシフトフィールもなかなかこだわった逸品。ストロークは、それほど短いというタイプではないが、スコッスコッと小気味よく各ギヤに入る。各ギヤのセレクトストロークの設定が良いのか、シフトミスをしにくいのもポイントで、初めて乗ったクルマなのに、まるで長年乗っている愛車のような感覚でシフトできた。
ホンダS660には、CVTも用意されている。日本の現在の免許制度を考えれば、AT免許でも乗れるミッドシップオープンスポーツカーというのも、ビジネス上必要だ。逆にアルトターボRSは、今時MTでは時代遅れと言わんばかりに、コスト重視で2ペダルMTのAGS(オート・ギヤ・シフト)一本の設定。ある意味、専用開発の6MTを用意したホンダの想いは深いし、好感がもてるものだ。こうした商売度外視ともいえる設定が、ホンダファンを増やす理由のひとつでもある。
CVTのフィーリングそのものは、随分頑張った。CVTの滑りも感も少なく、パドルシフトのレスポンスも速い。ただし、MT車を乗った後では、やはり物足りなさを感じてしまう。体感できなかったが、MTとCVTとでは、車重が20㎏も違う。そう考えると、走行性能を考えれば、やっぱりMTがお勧め。AT免許しかないというのなら、無理してでもMT免許を取り直しなさい! と、言いたい。
ホンダS660は、人とクルマが一体化する感覚?
少々懐疑的な目でみていたホンダS660だったが、試乗後には「もっと乗っていたい!」と思ったほど、純粋に楽しめた。オープン走行時には、自分のすぐ側にあるタイヤが路面と擦れる音や、後ろから聞こえるエンジン音、風切音、すべてが心地よく感じ、クルマと自分と一体化していくような感覚になる。小さなクルマだからこそ感じるこの一体感こそがホンダS660の魅力だ。
日本独自の軽自動車規格枠である小さなミッドシップオープンスポーツカー、ホンダS660。軽自動車枠内で磨かれたスポーツカーは、世界でも通用すると実感。「枠にはまるな!」というホンダの企業メッセージ通り、妥協なく設計されたホンダS660。それでありながら、軽自動車という「枠の中で、磨きぬいた!」。随分、むずかしいことをしたものだ。だからこそ、乗って楽しいものができたといえる。ホンダS660は珠玉のスポーツカーだ。
ホンダS660価格
■ホンダS660価格
・α 6MT 2,180,000円/CVT 2,180,000円
・β 6MT 1,980,000円/CVT 1,980,000円
■ホンダS660特別仕様限定車価格
・CONCEPT EDITION 6MT 2,380,000円/CVT 2,380,000円
ホンダS660燃費、スペックなど
代表グレード | ホンダS660 α 6MT |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 3.395×1.475×1.180mm |
ホイールベース[mm] | 2,285mm |
トレッド前/後[mm] | 1,300/1,275 |
車両重量[kg] | 830kg |
総排気量[cc] | 658cc |
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] | 64PS(47Kw)/6000rpm |
エンジン最大トルク[N・m(kg-m)/rpm] | 104(10.6/2,600rpm |
ミッション | 6MT |
タイヤサイズ | 前:165/55R15 後:195/45R16 |
JC08モード燃費 | 21.2km/L |
定員[人] | 2人 |
税込価格[円] | 2,180,000円 |
発売日 | 2014/4/2 |
レポート | 大岡智彦 |
写真 | 編集部/ホンダ |
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