タイ自動車マーケットを解説の目次
日本 VS 中国のタイマーケット
今年も東南アジアで最大の自動車の祭典であるバンコク国際モーターショー2026が開催された。
ここ数年のトレンド通り、中国メーカーがBEV(電気自動車)を中心に大攻勢をかけ、従来からタイで高いシェアを維持してきた日系の自動車メーカーが対抗するという構図が今年も描かれていた。
ただ、中国メーカーも一様に好調なわけではなく、日系メーカーもそれぞれに事情を抱えている。まずは、タイの自動車市場から見ていこう。
タイの新車販売台数は、2024年に大きく落ち込んだ。何と前年比26.2%減の57.3万台とはなったのだ。これは2009年以来の低水準だった。それが2025年にはやや持ち直して3年振りに増加に転じ、前年比8.5%増の62.1万台にまで回復した。2026年も前年比が微増の予想でほぼ前年並み水準になると見られている。
タイの自動車販売が不振を続けているのは、タイ経済全体の低成長が常態化していることが基本的な理由だ。国民の所得が伸びない中で、家計債務が増加する傾向にあり、自動車ローンの延滞率が高まったことから、金融機関によるローンの与信審査が厳格化していることが大きな要因だ。
また、タイ政府が普及に力を入れているBEVも、新たな課題が浮き彫りになっている。事故や故障などの損害率が高まっていることを受け、保険会社が任意保険の引受を渋るような事態が起きているというのだ。
そのことを反映し、BEVの販売比率の高い中国系自動車メーカーでは、今回のバンコク国際モーターショーの会場に置いて、新車の販売時に低金利や金利0%の自動車ローンを提供し、購入後数年間の自動車保険も付与するとのキャンペーンを展開する例が見られた。
浮き沈みが激しい出展社
このような状況の中で開催されたバンコク国際モーターショーには、今年も多くの中国系自動車メーカーが出展していた。
ただ、その顔ぶれには変化も出ている。今年も多くの中国系メーカーが軒を連ねたものの、昨年は出展していた航空会社系メーカーのJUNEYAO AUTO(吉祥自動車)が今年は姿を消し、昨年のショーの直後に本国での経営不振が表面化したNETAの姿もない。さらにいえば、中国ではなくベトナムを代表する自動車メーカーのビンファストも出展を中止している。
日本系自動車メーカーもここ数年でタイでの生産ラインを縮小・撤退の動きが見られるため、栄枯盛衰は中国勢に限った話ではない。東南アジア最大の自動車市場であるタイでは、ますます競争が激化し、プレーヤーの淘汰も進むことになりそうだ。
タイ政府が支援に力を入れてきたBEVは、充電ポイントが少ないことによる使い勝手や前述のような保険付与の問題などもあってなかなか普及が進まない状況にある。
中国製BEV攻勢で、日本メーカーピンチに
一方で、アメリカのトランプ大統領による暴挙に起因する石油危機の影響で、ガソリン価格の高騰からBEVが見直される傾向も出ている。この先どちらの方法に進むか見通しにくい状況にある。
日系自動車メーカーがシェア80%~90%を占める金城湯池としてきたタイ市場で、直近のシェアが70%を切る水準まで落ちているのは、主に中国系自動車メーカーによるBEV販売の台頭によるところが大きい。タイ市場ではBEVの90%近くが中国メーカーで占められているからだ。
バンコク国際モーターショーの販売台数
バンコク国際モーターショーの大きな特徴は、クルマを販売するショーであることだ。東京モーターショー(現ジャパンモビリティショー)など主要国のモーターショーがコンセプトカーや市販車などを見せるだけのショーであるのに対し、バンコクではショーの会場でクルマの販売もしている。それも相当な台数のクルマがショー会場で販売されるのだ。
実際には、ショーの前から実質的な受注を集めていてショー会場で成約した形にして成果を競い合うといった演出的な側面もある。だが、バンコク周辺に住むタイ人にとって、モーターショー会場でクルマを買うというライフスタイルが定着しているのもまた事実である。
モーターショー会場では最近、クルマの発表と同時にさまざまな販売促進キャンペーンが発表されることもあり、ショー会場で成約するのが有利だったりするのだ。
その結果として今年の販売ランキングは以下のようになった。
1位 BYD (中国) 17,354台
2位 トヨタ (日本) 15,750台
3位 OMODA & JAECOO (中国) 15,088台
4位 MG (中国) 10,537台
5位 DEEPAL & NEVO (中国) 8,573台
6位 ジーリー (Geely) (中国) 7,811台
7位 チェリー (Chery) (中国) 7,509台
8位 GWM (中国) 6,819台
9位 GAC (中国) 6,287台
10位 ホンダ (日本) 5,907台
首位になったのはBYDだが・・・
2025年には、メーカー(ブランド)別の販売台数でBYDがトヨタを抜いて首位に立ち、大きな注目を集めたが、それでも2025年の段階では日系メーカー(ブランド)はトヨタ、ホンダ、三菱、いすゞ、マツダと5社が入っていて、まだまだ日系メーカーの強さが維持されていた。
ところが、2026年にトップ10に入ったのはトヨタとホンダだけで、残る8枠を中国メーカーが埋めつくしたという結果は、日系メーカーにとって相当に深刻な状況である。
さらにいえば、こうした中国勢によるシェア奪取がタイだけに止まるのか、あるいは東南アジア全体に拡大し、さらにはそれ以外の世界市場も中国メーカーに奪われていくことになるのか、予断を許さない状況にある。
タイでも強いトヨタ
ただ、今年のモーターショー会場での成約台数に水を差すわけではないが、自動車市場のパワーバランスを見極めるには、ほかのデータにも目を向ける必要がある。
2025年のトヨタの年間販売台数は約23万台で、依然としてシェア首位を維持している。2025年にはショー会場での成約台数が2位に落ちたが、実際には地方でのピックアップトラックの販売やタイ市場全体でのハイブリッド車(HEV)の安定した需要により、実数では他社を圧倒している。
2025年のBYDの年間登録台数は、4万台弱(39,856台)だったから、トヨタとは大差があった。BYDのショー会場での約1万台という予約数は、年間実績の約4分の1を1回のイベントで稼いだ計算になるものの、登録の実数で見ればまだトヨタとの差は大きい。
これは、ショー会場で成約そのものが自己申告であるため、台数がインフレ傾向になりがちな面があることがひとつ。また、成約したもののその後のローン審査に通らないケースもある。
さらに、2025年当時は中国からBEVを輸入していたが、その通関手続きに時間がかかるなどして登録が進まなかったなどの事情がある。受注がそのまま販売台数に結びつかない面もある。
バンコク国際モーターショー会場での成約台数は、タイ市場のトレンドを占う象徴的な数字なので、それで首位に立つかどうかは大きな意義があるが、そればかりを見ていると現実を見失う恐れがあることも知っておきたい。
このような状況を踏まえた上で、メーカー別にバンコク国際モーターショー2026をレポートしていく。
<レポート:松下 宏>
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