X3をベースとしてBEV化したiX3
BMWのBEVとして初めてのクロスオーバーSUV(BMWではスポーツ・アクティビティ・ビークルと呼んでいる)が、iX3である。
ネーミングから分かるように、ボディやプラットフォームなど、ベースとしているのはX3だ。このiX3、ドイツでは2020年夏に発表された。
日本には、フラッグシップのBEV(バッテリー電気自動車)iXとともに上陸し、21年秋に発売を開始している。
フォルムはX3と同じだが、キドニーグリルはパネルで塞がれ、クロームの外枠やアダプティブLEDヘッドライトなどにもブルーのアクセントを追加した。
インテリアもX3に準じたデザインだが、スターターボタンやシフトレバーにブルーの加飾を施している。外観だけでなく内装にもBEVであることをアピールする演出を加え、違いが分かるようにした。
視界良好! 大きさを感じさせない見晴らしの良さ
日本に導入されるのは後輪駆動の2WDで、グレードは押しの強いMスポーツだ。
ボディサイズは小さくはないが、最低地上高は179㎜だから小柄な人でも乗り降りに苦労することはない。
X3と同じようにステアリングやシートの調整量が大きいこともあり、最適な運転姿勢を取ることができる。運転席からの見晴らしがよく、ボンネットの周囲も把握しやすい。だから、走っているとボディの大きさを意識させなかった。
フロントシートは、ホールド性のよいスポーツシートだ。表皮には滑りにくいヴァーネスカレザーを奢っている。大ぶりのシートは200kmの距離をノンストップで走っても疲れを誘わなかった。
また、メーターだけでなく12.3インチのセンターディスプレイも見やすい。タッチパネルとダイヤルスイッチの両方で操作できるのも親切である。
ガソリン4.0L級の大トルクを誇るiX3
iX3に搭載されているモーターは210kW/6000rpm、馬力表示では286psだ。最大トルクは400N・m(40.8kg-m)/0〜4500rpmと、ガソリンエンジンの4.0Lクラスと同等の厚みのあるトルクを低回転から発生する。
車両重量は2200kgと重いが、モーターは瞬発力が鋭く、瞬時にパワーとトルクが盛り上がるから重いボディを意識させない力強い加速を披露した。
iX3は3つのドライブモードを備えているが、コンフォートモードでも軽快な加速フィールだ。速い流れを無理なくリードできる。
混んだ街中の走りでは優れたドライバビリティのエコプロモードが重宝した。もちろん、スポーツモードを選べば、応答レスポンスは一段と鋭くなり、シートバックに背中を押しつけられる刺激的な加速を引き出すことが可能だ。
ちなみに0-100km/h加速は、PHEVの30eに迫る6.8秒と発表されている。なかなかの俊足だ。
電費アップには慣れが必要!?
運転しやすさに大きく貢献しているのが、アクセルペダルの踏み込みを加減して減速を巧みに調整する「ワンペダルドライブ」の採用である。i3と同じように回生ブレーキを効かせて減速を行う。
だが、iX3は4段階に減速特性を変えられるように進化させ、自動調整モードも加わった。もっとも強烈な回生が得られるのはBモードだ。慣れてくると完全停止までアクセルペダルを緩めるだけで持っていける。これは、電費アップにも効果絶大だ。
BEVというと気になるのは電費。内燃機関に乗っている人の多くは、BEVの航続距離に不安を抱いている。
今回の試乗では、高速道路を中心とし一般道も走った。一般道の走行距離は60kmほどだが、最初の20㎞は渋滞ばかりで、ノロノロ走行。残りの40kmも50㎞/h以下のスピードで、平均速度は20.4㎞/hにとどまっている。
BEVは一般的に、速度が低ければ速度をアップさせるための電力消費、空気抵抗が少ないので、一般道のほうが電費はいい。ところが、iX3は平均電費は4.9㎞/kWhと、思いのほか伸び悩んだ。車重が2200㎏もあるので、仕方がない部分もある。
ただ、電費が伸びなかった理由の1つは、エアコンが設定温度。電費より設定温度になることを優先したからである。起動してから最初の10分ほどは、エアコンが早く設定温度になるように全力で車内の温度を下げようと努めた。
また、高速道路までの20kmは、またiX3のキャラクターを理解できず、実力を引き出す運転ができていなかった。無駄なアクセルワークが多かったのである。
コツさえ分かれば、高速道でまさかの電費6.6km/kWh
高速道路を下りて一般道に入ってから勾配のきつい登坂路が続いたのも電費のも悪化につながった。iX3の運転のコツが分かり、瞬発力を必要としない区間では、エコプロモードを使うようにした。エコプロモードを使用してからは、6km/kWh台の電費をマークするようになっている。
高速道路は、約300㎞走行した。 平均速度は72.8㎞/hだ。この区間の平均電費は6.6㎞/kWhを記録している。
往路は標高1000mまで一気に駆け上がった。登り坂でも流れに乗れたなら早めにアクセルペダルを緩め、丁寧な運転を心がければ電費の悪化を最小に抑えることが可能だ。
復路は下り坂が多かったから、回生ブレーキを有効に使って電費を稼ぐことができた。
さすがアウトバーン育ち! 高速道では驚きのカタログ値越え電費を記録!
また、他のBEVより高速電費がよかったのは、惰性で滑走するコースティングを上手く使えたからだ。
ワンペダルドライブを解除し、アクセルをオフにすると滑るような走りを見せ、電費向上に大いに役に立った。
日本のBEVと比べ、アウトバーン育ちのBMWは高速走行時の電費の落ち込みが小さい。100km/hでも電費がそれほど悪くならなかった。これは凄い! 日本のBEVだと80㎞/hを超えてくると、明確に電費が落ちるモデルが多い。
バッテリー容量が80kWhなので、今回のロングツーリングでの電費6.6km/kWh では、航続距離は528㎞になる計算だ。WLTCモードでの航続距離は508kmだからカタログ値を上回っている。
3年半ほど前、200㎞ほど高速道で走行した某社のCセグコンパクトBEVの電費が6.5㎞/kWhだった。車重は1,700㎏弱のモデル。そう考えると、2,200㎏の車重であるiX3の電費が6.6km/kWhというのは驚きであり、技術の進化を感じさせる。
ちなみに東名高速道路の海老名上りサービスエリアで40kWの急速充電器を使ってみた。このときは約26分充電し、15.2kWh 入っている。また、翌日56kWの急速充電器を使ったら約15分で10.9kWh入った。
残念ながら、最新90kWの急速充電器での充電はできなかった。80kWhもの大容量バッテリーをもつiX3だと、さすがに40kWや50kWの急速充電器で30分充電では物足りない電力しか充電できない。
40kW出力の急速充電器で、約26分充電で15.2kWh。これだと、6.6㎞/kWh という優れた電費であっても、航続距離は約100㎞しか増えない計算になる。
80kWhもの大容量バッテリーを搭載するiX3の長い航続距離メリットを生かしにくい。
すでにiX3では、最大150kWの出力をもつ急速充電器に対応。そろそろ、150kW出力の急速充電器を増やして欲しいところだ。
BEVでRRのiX3。走る楽しさは、ガソリン車以上!
iX3はストラットとマルチリンクのアダプティブサスペンションを採用している。バッテリーをフロア下に敷き詰めたこともあり、重心が低い。
ハンドリングは素直で正確だ。ワインディングロードでも軽快感のある走りを披露し、路面追従性も優れている。リアの蹴り出しが強いのは後輪駆動ならではだ。狙ったラインを寸分狂うことなくトレースすることができ、操っている感も強かった。凹凸のある路面でも足の動きはしなやかだ。
また、高速道路での直進安定性も素晴らしい。さすが後輪駆動車を作り慣れているBMWである。強い横風が吹いた場面でも、トンネルの出口でもビシッと直進性を保ち、安定感は絶大だった。
運転支援システムの「ドライビングアシスト・プロフェッショナル」も安心感のある走りに大きく寄与している。どのモードでもハンドリングと乗り心地の妥協点は高い。
20インチのMエアロダイナミックホイールに組み合わせるタイヤはヨコハマ製のアドバンスポーツV107で、前後異サイズだ。ハンドリングはいいが、電費に関しては不利になるのでは、と思ったが、その心配は杞憂に終わった。
乗り心地は低速や荒れた路面ではちょっと硬めと感じることもある。だが、スピードを上げると意のままの動きが際立ち、操る楽しさが分かりやすい。
iX3はドライバーズカーとしても、ファミリーカーとしても楽しめる懐の深いバッテリーEVだ。運転して楽しい。しかもホットに攻めても、丁寧なアクセルワークを心がければ350km以上の航続距離を実現している。初めてのバッテリーEVに選んでも、最良のパートナーになってくれるだろう。
<レポート:片岡英明>
BMW iX3価格
・BMW iX3 M Sport 8,620,000円
BMW iX3電費、ボディサイズなどスペック
全長 x 全幅 x 全高(mm) 4,740 x 1,890 x 1,670
ホイルベース(mm) 2,865
車両重量(kg) 2,200
車両総重量(kg) 2,475
最低地上高(mm) 179
定員(名) 5
トランクルーム(Litter) 510 後席折畳み時1,560
駆動方式 後輪駆動(RWD)
電動機型式 HA0001N0
蓄電池種類 リチウムイオン電池
容量(Ah) 116
総電圧(V) 345
総電力量(バッテリー容量)kWh 80.0
最高出力(kw[ps]/rpm(EEC)) 210 [286]/6,000
最大トルク(Nm[kgm]/rpm(EEC)) 400 [40.8]/0-4,500
一充電走行距離 WLTCモード国土交通省審査値(km) 508
最小回転半径(m) 5.7
タイヤサイズ フロント:245/45R20 、リア:275/40R20
充電時間 DC高速充電ステーションでの充電時間 50 kW 10 % ‐ 80 % 83分
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