BMW i3新車試乗評価 独特の運転手法が求められる強烈な回生ブレーキ。存在が気にならないほと静粛性の高い発電用エンジン
硬めの乗り心地と、低重心から生まれる爽快なドライブ感覚
今回、新型BMW i3の試乗で訪れたのは、鹿児島県にある世界自然遺産の島として知られる屋久島。一年間で9000mmもの雨が降る水と緑に覆われた神秘的な島は、島内の電力の99.5%が水力発電でまかなわれています。深い森と蒼い海に囲まれた自然が豊かなこの島で、CO2フリーの環境のもと、さっそくi3で走り出してみます。まずは、モーターのみで走るi3に乗り込むことに。
i3のスタートスイッチを押すと、DVDプレーヤーのように音もなくスタンバイ状態に。ハンドルの右脇に置かれたシフトセレクターをドライブに入れてアクセルを踏み込むと、「ヒュイーン」という音色とともに振動はなく静かに走り出し、やがて、モーターならではの強烈なトルクに圧倒されながら、伸びのいい加速フィールに感動させられてしまうことに。
i3はBMWの高級車さながらに、スイッチ操作で『ノーマル』・『Eco Pro』・『Eco Pro+』という3つの走行モードが選べるようになっています。電費よく走れる『Eco Pro』と『Eco Pro+』モードでは、アクセルを抜いた時に減速エネルギーをバッテリーに回収する回生ブレーキが強めに働きます。その摩擦抵抗は一般的なハイブリッドカーの回生ブレーキと比べてかなり大きく感じるもので、アクセルペダルから足を離すだけで、ブレーキに踏み換える必要がないくらいに減速するイメージ。アクセルのオン・オフだけで走れてしまう感覚が新鮮だけど、カーブはある程度の車速を維持しながら立ち上がるために、アクセルペダルの踏み足しが要求されます。
アクセルを踏み込んでしまった分の電力が消耗してしまうことを考えると、三菱のアウトランダーPHEVのように、減速時の回生量がパドルなどで調節できるようになると、走りの楽しさとエネルギーの節約を両立させる上でメリットが得られて、ドライバーに“走り甲斐”を与えてくれそうだなぁ、なんて思ってみたりして。
見た目では、19インチの大径ホイール(オプション)でクールなルックスを演出するBMW i3。接地面積が少ない細身の専用タイヤは、走行抵抗が少ない印象を与えます。日本仕様は、ルーフの高さが機械式駐車場に収まる1550mmに設定されていますが、その分、足回りが引き締められてローダウンされていることと、高めの空気圧で設定された19インチタイヤの影響で同乗者はコツコツとした縦揺れを感じます。
しかしながら、ちょっと硬めの乗り心地とトレードオフする形でBMWらしく心を踊らせる走りは健在。カーブが続くワインディングでは、まるで水を得た魚のように路面を這うような走りへと変わり、イメージ通りの走行ラインを気持ちよく辿っていくことができます。
i3は重量物のバッテリーを床下一面に搭載していることで、低重心でふらつきが少ないだけでなく、ガッチリとしたボディと引き締まった足回りが路面からの入力をしなやかに受け止めて、ドライブをスポーティに楽しませてくれるのです。まさに、500万円近いプライスタグに相応しい、プレミアムカーらしい走りの楽しさを実現したEVであることが分かります。
始動したことに気が付かないほど静粛性の高い発電用エンジン
長距離ドライブなどで利用するユーザーに向けて、BMW i3にはモーターに2気筒647ccのエンジンを加えたレンジ・エクステンダー仕様も用意。ちなみに、モーターのみのモデルの航続可能距離は、運転の仕方で異なりますが、満充電の状態でノーマルモードが130km〜160km、エアコンまで制御する『Eco Pro+』モードを駆使して200km程度まで走れる計算。
それに対して、レンジ・エクステンダー仕様の場合は最大で300kmまで延長することが可能です。バッテリー残量が少なくなっても、発電用のエンジンが充電しながら走ってくれるため、思い切ってモーター走行を楽しむことができます。
BMW i3に搭載されている発電用エンジンは、後席の下辺りに搭載されていますが、走っている途中で始動しても、ブルンとくるような振動は感じにくく、わずかなロードノイズにかき消されて気づかない程度。この発電用のエンジンは、2200rpm〜5000rpmの範囲で3段階の回転パターンが設定されていて、低速、中速、高速走行に応じて回転を変化させます。
つまり、低速走行時は低回転で回るため、エンジンの存在に気づきにくく、電力の消耗が著しい高速走行では、高回転で回して発電しながら走ってもエンジンの回転ノイズはロードノイズや風切り音にかき消されるので不快に感じることもありません。じつに配慮が行き届いた設定になっているのです。
こうして、i3で屋久島をドライブしていると、何かと慌ただしい都会とは違い、豊かな森やウミガメが生息する自然環境で過ごせる心地よさを感じることができます。こうした自然を後世に残していくことを考えれば、環境負荷を極力抑えたEVにBMWらしい“走る歓び”がしっかりと感じさせるエコカーの登場を嬉しく思うばかり。将来のクルマ社会は、まだまだ捨てたものではなく、私たちを楽しませてくれる新しい世界を見せてくれそうです。
BMW i3価格、燃費、スペックなど
■BMW i3価格
i3 4,990,000円
i3 5,460,000円
定員[人]4人
代表グレード | BMW i3レンジエクステンダー装着車 |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 4,010×1,775×1,550mm |
車両重量[kg] | 1,390kg |
総排気量[cc] | 647cc |
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] | 38(28)/5,000rpm |
エンジン最大トルク[kg-m(N・m)/rpm] | 5.7(56)/4,500rpm |
モーター最高出力[ps(kw)] | 170ps(125kw) |
モーター最大トルク[kg-m(N・m)] | 25.5kg-m(250N・m) |
駆動用バッテリー | リチウムイオン電池 |
バッテリー総電力量 | 21.8kWh |
航続可能距離 | 最大300㎞ |
0-100㎞/h加速 | 7.2秒 |
価格 | 5,460,000円 |
レポート | 藤島知子 |
写真 | BMW |
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