もはや、日本を超え一大拠点となったタイ工場を視察
三菱はミラージュの生産に合わせて、タイに第三工場を建設した。工場の建設を模索しているときに、ちょうど第一、第二工場に隣接した土地が売りに出るという幸運に恵まれたとのこと。
そもそも三菱の工場は、タイの重要な貿易港であるラムチャバン港のすぐ近くに立地していたから、輸出比率の高いミラージュの生産工場としては絶好の立地である。
三菱の第一、第二工場では、トライトンやパジェロスポーツなどを中心に、ランサーなどの乗用車も一部生産するという形だったが、第三工場は乗用車専用工場で年間15万台を生産する能力を持つ。現在はミラージュだけを生産しているが、近くミラージュをベースにした4ドアセダンであるコンセプトG4の市販仕様車の生産が始まるという。
今や三菱にとって、タイはとても需要な拠点であり、第一から第三工場の生産台数は日本を上回るような状況だし、販売台数を見ても日本よりもタイのほうが良く売れるような状態になっている。そんなタイの第三工場と、輸出船への積み込み作業を見学した。
タイの第三工場では、約2分に1台のペースでミラージュが生産されている
乗用車専用の第三工場では、現在はミラージュだけが生産され、タイ国内に供給しているほか、アセアン各国や日本、さらにはヨーロッパなどに向けての輸出も始まっている。
気温が30℃を越えるのが普通のタイでは、工場内も温度が高くてはかなり暑い。ラインの現場には冷房設備はなく、扇風機だけが頼りである。
この第三工場では、第一、第二工場に比べて天井を高くしたのを始め、その天井部分にしっかりと断熱材を張ることで、工場内の温度上昇を抑える工夫がなされている。
プレス工程には、最新のプレス機械が導入され、ドアやルーフ、ボンネット、トランクなど、さまざまなボディパーツをプレスしている。クルマのフロア部分などは、サプライヤーの工場でプレスしたものが運ばれてくるが、かなりの種類の部品を工場内で生産している。
プレスする部品に応じて型を取り替える段取りは、作業時間がわずか3分くらいですむように工夫されているというが、取り替えの回数を多くすると効率が下がるため、一日に生産する分をプレスした上で型を交換しているという。
工場内には、プレスした部品がラックに入れられて大量にストックされていた。これを1日で消化していくことになる。
プレスされた部品は、教育と訓練を重ねた検査員が1枚1枚を目で見て手で触ってチェックした上でラックに収納し、順次溶接工程に回している。
溶接工程でも作業員が溶接のガンを持って作業している。最近は日本の工場ではあまり見かけなくなったシーンだ。日本では溶接工程の大半をロボットがこなすのが普通だが、人件費の安いタイではロボットに任せる部分と人間が作業する部分とが分けられている。溶接ロボットはクルマのフロア部分や基本骨格などの部分を担当している。
溶接器具のガンは、天井から吊るされて作業員の重量負担を減らす工夫などは当然のこととしてなされているが、工場内全体を見渡しても、この工程での作業が最も負担が大きいように思えた。
溶接工程の後は、ボディを吊り下げて塗装工場に運ばれる。今回の工場見学は、工場内のどこでも写真撮影OKというおおらかさだったが、さすがに塗装工場は見ることができなかった。塗装工場はクリーンルームになっていて、どの自動車工場でも見学者などは入れないのが普通である。
塗装されたボディは、一旦ドアを外して組み立て作業をしやすいようにした上で、組み立てラインを流れていく。ドアを外して流す方式も多くの自動車メーカーが採用している。
組み立て工程も基本的に人間が作業していて、ロボットに頼っている部分はほとんどない。シート、タイヤ、フロントガラスなどの重量物は補助器具を使って重量負担を軽減し、作業をしやすくする工夫はなされている。
日本でも組み立て工程は、むやみに自動化することはなく、トヨタのように人偏の付いた“自働化”であったりするのが普通だ。この第三工場の組み立て工程では、フロントウインドウの接着剤を塗る部分に、ロボットが導入されていた程度である。フロントウインドウそのものは、吸盤を使って二人がかりで貼り付けの作業をしている。
ロボットか人間かという問題は、単にコストなどだけの問題ではなく、現地で一定の雇用を確保することも考えなければならない。すべての工程を単純に自動化すれば良いというものではなく、人とロボットを必要に応じて使い分けるという発想で工場が運営されている。生産ラインが折り返しになる部分などでも、人間が台車を押してクルマを移動させていた。
人間が作業すると言っても、たとえばボルトの締めつけなどは、トルクレンチに履歴がしっかり記録され、ミスの出ないような仕組みが作られている。
最終の検査ラインには、女性作業員の姿も目立った。日本の自動車工場で生産ラインで女性を見かけるのは例外的だが、タイでは数多くの女性がラインで働いている。
タイ人は、日本人に比べるとそもそも目が良くて、外観品質のチェックを厳正に行うことができる。それに加えて、女性ならではの細かな配慮があるので、最終の検査ラインには女性が適しているという。
検査ラインのほか、構内で部品を運ぶクルマを運転していたドライバーも女性が多かった。
検査ラインを通った後は、全車走行試験をした上で出荷されていく。このような工程を経て、現在では2分に1台のペースでミラージュが生産されている。
4,900台もの車両が積める自動車専用船
三菱の第三工場を見学した後、近くのラムチャバン港に停泊している自動車専用船を見学するために埠頭に移動した。
この日は、日本郵船の子会社がアジア域内を中心地運行しているビクトリー・リーダーが、車両の積み込みのためにラムチャバン港に停泊していて、その内部を見学できた。
輸出埠頭や自動車専用船を見る機会は、これまでにも何度かあったが、船内に入って中で積み込みの様子を見られる機会はなかった。私にとっても初めての経験で、今回はその機会に恵まれた。
ビクトリー・リーダーは、4900台のクルマを積めるだけの能力を持つ。この台数の積み込みを1日で終えるという。それだけにとてもラッキーなタイミングだった。
この船は、アジアから中近東を中心に運行されいて、途中の港でクルマを陸揚げしたり、場合によっては追い積みしたりしながら各地の港を回っている。
積み込みが行われていたのはトライトンで、タイから主に中近東に運ばれるクルマを積み込んでいた。ストックヤードに置かれたトライトンは、6名1組のチーム(ギャングと呼ぶ)によって船内に運び込まれ、船内で受け渡しをして6名がクルマでストックヤードに戻っていく。7チームがこれを繰り返して1日で5000台近いクルマを積み込むという。
船内の限られた空間の中に少しでも多くのクルマを積み込むため、左右10cm、前後30cmの間隔でクルマを並べていく。それも陸揚げ港でクルマを降ろしやすいように、積み込むときは必ずバックで積むことになる。
ドライバーが、一人でこの間隔にまで詰めていくのではなく、指示者が手振りと笛で合図し、それに合わせてきっちりと間隔を詰めて駐車していく。ミラーもたたんだ状態でクルマを動かすのは熟練ドライバーのなせる技であり、指示者の合図があるとはいえ、それは見事な作業ぶりだった。
駐車したクルマは、ベルトで床のフックに固定される。これによって海が大荒れになってもクルマが動くことはなく、左右10cmの間隔であってもぶつかることはないという。
前後間隔は30cmが確保され、左右間隔に比べて広めになっているのは、フックを外すときに大柄な人でも体を入れて作業できるようにするためなのだそうだ。
ちなみに船内は、天井が低く抑えられているが、大型トラックなどを積み込むときには天井というか、床というかを上下に動かして高さ調整が可能な構造になっている。いろいろな意味で徹底した効率化が図られているのが輸出専用船の船内だった。
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