トヨタ ミライ(MIRAI)長期評価レポートVol.5 公道試乗! 息の長いシームレスな加速感は「快感!」 [CORISM]

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2015/05/26

好き嫌いが分かれるミライのデザイン

トヨタ ミライ(MIRAI)
 燃料電池車トヨタ ミライに試乗した。ミライには昨年、プロトタイプ車に試乗していたが、今回の試乗車は完全に市販車レベルのものである。昨年のプロトタイプ車もナンバーが付けられていたくらいだから、市販車とほぼ同等の仕上がりだったと思われるが、今回のものは完全に市販車と同じである。

 すでに、私は水素社会への第1歩として、トヨタ ミライを購入した。この仕上がりで、私にも納車されるのかと思うと、可能な限り入念に試乗したいという気持ちになった。いつもの倍以上の試乗時間を費やして、トヨタ ミライの本質をチェックした。

 ミライの外観デザインは、改めてしげしげと眺めてみると、全体とし一定の未来感覚を備えているものの、個人的な好みでいえば特別カッコ良いとは思えない。各ピラー部分をブラックアウトし、ルーフが浮いたように見えるようにデザインしているのが近未来感覚の部分。ルーフの中央は、各ボディカラーともブラックになる。

 フロントの左右に大きな三角形の開口部があるが、これが特に微妙なデザインに見える。燃料電池車らしい空気取り入れ口であるということは分かるが、何とも独特な感じである。まぁ、それが個性をアピールしているのも事実で、ミライのデザインが好きという人もいるので、好き嫌いが分かれる部分でもある。

トヨタ ミライ(MIRAI)
トヨタ ミライ(MIRAI)
トヨタ ミライ(MIRAI)

トヨタ ミライ(MIRAI)

日本ではやや大きさを感じるボディ。後席2人乗りとしたことで、ラグジュアリー感が大幅アップ!

トヨタ ミライ(MIRAI)
 インテリアもエクステリアと同様で、一定の未来感覚を備えるとともに、上級セダンにふさわしい質感も確保されている。4名乗車の後席は、ゆったりと乗れるのが良い。ホンダのコンセプトカーは5名乗車である点をアドバンテージとしているが、特別なクルマという点ではラグジュアリー感がアップする4名乗車のほうが優位に立つと思う。

 インパネ回りなども、近未来的で中央に大きな液晶画面が装着されている。その上部には、液晶のセンターメーターが配置されているが、速度計やエネルギーモニターなど、部分的にプリウスと似た印象がある。もちろん上質さという点では、ミライはプリウスを大きく上回っている。

 ミライのボディは、けっこう大きくて全長×全幅×全高が4890mm×1815mm×1535mmというサイズだ。ホイールベースも2780mmと長い。基本プラットホームは、部分的にレクサスHSやサイのものを流用しているが、サイズ的には完全にひと回り大きい。

 結果として、最小回転半径も5.7mはけっこう大きくなっている。狭い駐車場しかない私には、やや厳しい点である。かつて乗っていたシトロエンC5は、全幅1860mmもあって、最小回転半径が6.1mだったから、それに比べればミライのほうが扱いやすいことになる。

トヨタ ミライ(MIRAI)
トヨタ ミライ(MIRAI)
トヨタ ミライ(MIRAI)

スムースで無限に伸びて行く加速感は「快感!」?

トヨタ ミライ(MIRAI)
 さぁ、いよいよミライを実際の街中へ連れ出す瞬間が来た。運転席に座ってシートベルトを締め、スタートボタンを押してシステムを立ち上げる。すぐにREADYのランプが点灯して、走れる状態になったことが表示される。エレクトロシフトマチックのレバーを右手前に引き、Dレンジに入れて走り出すところまでの操作はハイブリッド車のプリウスと共通だ。

 軽いクリープによってスルスルと走り出すときには、ほとんど無音の状態である。これは、プリウスなどのハイブリッド車のEV走行モードや、リーフなどの電気自動車でも経験していることだ。ミライも水素で発電して走る電気自動車なのだから、同じような静かさやスムーズさを備えているのだ。

 ミライのアクセルを踏み込んだときの、力強い加速感も電気自動車のものである。ミライは、車両重量がけっこう重くて1850kgもある。1500kgを切るリーフはもちろんのこと、HS250と比べても200kg以上も重いのだ。だが、ミライには113kW/335N・mのパワー&トルクを発生する4JM型のモーターが搭載されていて、加速時には重量級のボディをぐいぐい押し出していく。瞬時にトルクを立ち上げるモーターの特性によって気持ち良い加速が長く続いていく。

 パワーモードを選ぶと、より力強い加速が得られるようになっていて、切れ目がなく、無限に伸びていくかのような加速感は、正に快感というべき気持ち良さである。

低重心の高い操縦安定性もミライならではの魅力!

 昨年、プロトタイプ車に試乗したときには、加速時に燃料電池に空気を送り込むコンプレッサーの作動音がけっこう大きく入ってきた。それはガソリン車のエグゾーストノートのように、クルマを走らせる実感につながるものだったのだが、今回の市販車ではそれがかなり抑えられていて、ほとんど気にならなくなっていた。うるさいという不評が多かったためか、静粛性を高める対応が図られたようだ。

 アクセルワークに対する加減速のレスポンスや、それによるクルマの挙動も、ごく自然な感覚にしつけられていて、違和感のない走りを実現している。強いて言えば、ブレーキのフィールには、ガソリン車との間に多少の違いが感じられるが、それも意識していないと分からないくらいのわずかな違いである。

 ミライのハンドリングの良さなどは、プロトタイプ車をテストコースで試乗したときのほうが良く確認できた。一般道での試乗では、試せる走り方も限られたものになるからだ。

 プロトタイプ車の試乗のときには、燃料電池のスタックや水素タンクなど、重量物がクルマの中央に近い低い位置に搭載されることによるハンドリングの良さが強く感じられた。今回も操縦安定性の高さは変わっていない印象だった。極端な走りは試せないが、首都高のコーナーでは高い操縦安定性が確認できた。

 同時にVSC(横滑り防止装置)の介入が早すぎる感じだったのもプロトタイプ車で感じたことだった。これについては、チューニングの変更を検討しているとのこと。安定性志向を強めるのは悪いことではないが、一定の安全性を確保したうえで、ドライバーにコントロールしている実感を与えることもまた大切なことだと思う。

水素の充填時間は短いものの水素ステーションの数や営業時間が利便性を低下。ただし、これも時間が解決する?

イワタニ水素ステーション 芝公園

クリーンな水素をイメージさせる植物を設置したイワタニ水素ステーション芝公園。従来のガソリンスタンドとは、まったく異なる雰囲気をもつ

 今回の試乗では、水素の充填を試すこともプログラムの中に入っていて、横浜から岩谷産業が設置した芝公園の水素ステーションまで走って充填を試してみた。半分弱まで減ったタンクに充填する時間はごくわずか。充填前の段取り時間などを含めても、5分~10分くらいで十分に終わることが分かった。ガソリン車に給油するのと変わらない。正味の充填時間が3分ほどというのはうそではない。

 こうしたミライの利便性は、充電時間が長い電気自動車に対して燃料電池車が確実に優位に立つ部分である。逆に、水素ステーションのインフラが十分ではないのが燃料電池車が不利になる部分でもある。今のところ、どちらも一長一短というところだろう。ただ、最近では充電スタンドが増えてきた電気自動車に対して、充填できる場所が少ない燃料電池車はやや不利だが、これも時間の問題ともいえる。

 私もミライが納車された後は、芝公園の水素ステーションを利用することになるが、営業時間が平日の9時~17時に限られるのもけっこう厳しい点である。

イワタニ水素ステーション 芝公園 水素充填機

2機の水素充填機が並ぶ

水素充填

ほとんどガソリンのように簡単に水素が充填された。所要時間はわずか数分。現在は、専門のスタッフが充填してくれるが、いずれセルフのガソリンスタンドのように、自ら水素を充填する時代がやってくる

水素充填口

水素の充填口。水素の充填時には、ノズルを突っ込み、カプラーがカッチとはまる程度で充填OK。難しい操作は必要ないようだ

ざっくり、実際の航続距離は400~500㎞か? 長距離燃費や利便性など、今後、徹底的にレポートする!

ミライ専用T-Connectナビ

ミライ専用のT-Connectナビ。水素ステーションへの案内や営業時間、稼働状況を表示してくれる

 水素を満タンに充填した後に、再び試乗しようと液晶画面に表示される航続可能距離を見たら、325kmになっていた。これには、一瞬驚いた。ただ、よく考えてみれば、私が試乗中に加減速を何度も繰り返すような形で試乗をしたことや、私の前にも試乗した人が同様のことをしたり、通常の使い方ではないような走行パターンが原因だろう。

 ミライが納車され、自分のクルマとして乗り始めたなら、当然、徹底してエコランを心がけるつもりだ。そうした運転なら、実際の航続距離も軽く400km~500kmは走ってくれるものと期待している。こうした航続距離や燃費などについても、この長距離レポートで明らかにしていくつもりだ。今の段階では、燃費そのものより、水素ステーションの営業時間も含めて充填が最大の課題になりそうなことがはっきりしてきた。

 ただ、トヨタもそうしたことになることは想定範囲内。ミライ専用のT-Connectナビを設定し、水素ステーションの位置だけでなく稼働状況まで教えてくれる。

 燃料電池車が普及して不便を感じる人が増えてくれば、水素ステーションの設置も進むだろうし、東京では2020年のオリンピックに向けて水素充填インフラの整備が急速に進むことが期待される。間もなくユーザーとなる立場からは、少しでも早く水素ステーションが拡充されることを望みたい。

トヨタ ミライ価格、航続距離、スペックなど

■トヨタ ミライ価格:7,236,000円

代表グレード トヨタ ミライ(TOYOTA MIRAI)
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) 4,890×1,815×1,535mm
ホイールベース[mm] 2,780mm
トレッド前/後[mm] 1,535/1,545mm
車両重量[kg] 1,850㎏
最小回転半径[m] 5.7m
FCスタック型式 FCA110
FCスタック最高出力[kw(ps)] 114(155)kw(ps)
高圧水素タンク容量[L](2本) 122.4L(前方60.0L/後方62.4L)
モーター最大出力[kw(ps)] 113(154)kw(ps)
モーター最大トルク[N・m(kg-m)] 335(34.2)N・m(kg-m)
駆動用バッテリー ニッケル水素電池
容量[Ah] 6.5Ah
サスペンション(フロント/リヤ) ストラット式コイルスプリング/トーションビーム式コイルスプリング
最高速度(㎞/h) 175㎞/h
一充電走行距離距離[㎞] 約650㎞(JC08モード走行パターンによるトヨタ測定値)
定員[人] 4人
税込価格[円] 7,236,000円
発表日 2014年11月18日
レポート 松下 宏
写真 トヨタ/編集部

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