「こうすれば高齢者事故は減る!」高齢者ドライバー予備軍自動車評論家の回答は? その2
なぜ“暴走”するのか? ほぼ、踏み間違えが原因?
クルマが“暴走”して事故を起こすのはなぜなのか。基本的には、ほぼ100%がブレーキとアクセルの踏み間違いである。ほぼ100%という“完全はあり得ない”という意味での言葉のアヤで、実際には100%が踏み違いだと思っている。
何からの理由でアクセルとブレーキを踏み間違え、クルマを止めなければならないという思いから、さらに強くブレーキを踏んだつもりがアクセルを踏んでいて、クルマが“暴走”してしまうのだ。
今時、急ブレーキ踏んでもブレーキ痕はつかない
本人はブレーキを踏んだつもりでいるから、事故の後で「ブレーキを踏んだが止まらずに加速した」などという証言が行われ、警察が何の検証をすることもなくそのまま発表したりするから、テレビ業者や新聞業者がそのまま報じたりする。まるで、クルマの不具合が事故の原因だったかと思ってしまう人もたくさんいるが、それは間違いだ。
テレビ業者や新聞業者の報道では、目撃者の証言として「ブレーキ音は全然聞こえなかった」とか、あるいは警察の発表をそのまま真に受けて「ブレーキ痕は残っていなかった」などというのがある。
今のクルマには、すべてABSが装着されているから、ブレーキ音が出たり、ブレーキ痕が残ったりすることはまずない。間抜けな記者が自分の頭で真面目に考えることなく、他人の言い分をそのまま報じているだけのことだ。
クルマの“暴走事故”の事例は過去に何度か繰り返されていて、新聞などで報じられると急に“暴走事故”が増え、報道されなくなると自然に鎮静化するのを繰り返してきた。
自動車メーカーやクルマは、その都度、良く分からないけど何となく危ないという形で悪者にされてきた。ただ、過去の事例も含めて、ブレーキを踏んだのにクルマが止まらなかったなどというクルマの“暴走事故”は、ほぼ100%がドライバーのペダルの踏み間違いである。
踏み間違いが一目瞭然になるEDR
今のクルマにはイベントデータレコーダー(EDR)という装置が搭載されている。これはSRSエアバッグ横滑り防止装置が普及し始めたころから搭載されるようになったもので、今では乗用車ならすべて搭載していると思っていい。
このEDRには、クルマの前後方向と左右方向へ加速度、ブレーキを踏んでいるかどうか、アクセルを踏んでいるかどうか、アクセルの開度はどれくらいか、ハンドルを切っているかどうかなど、クルマ挙動とドライバーの操作のさまざまな要素が記録されている。エンドレステープのような形で一定時間ごとに上書きされている仕組みだ。事故などの衝撃があると、その前後の記録が残される。
EDRのデータを取り出せば、事故の原因はかなり容易に特定できる。特にブレーキを踏んだのにクルマが止まらず逆に加速した、などというケースでは、「あなたはブレーキではなくアクセルを踏んでいました」というのが簡単に明らかにされるのだ。
事故の解明にあまり使われることがないEDR
アメリカではクルマにEDRを装着することが義務付けられているというが、日本では法規による義務付けが行われておらず、また自動車メーカーも積極的に搭載を広報してこなかったこともあり、これが事故のときにすぐに原因調査に使われることがない。
なぜか日本の警察は事故が起きてもEDRのデータを使った検証をしたがらない。使えばすぐに事故原因が分かるというのだ。使うとしてもかなり後になってからのことだ。
EDRは交通事故でSRSエアバッグが展開するかどうかの判断をするために使われ始めた経緯がある。SRSエアバッグを装着しているのに、事故のときにエアバッグが開かなかったという苦情が発生し始めたからだ。
エアバッグが展開するには一定の作動条件があり、時速が30km以下にまで落ちたり、あるいは一定以上にハンドルを切ったりしていると、SRSエアバッグは開かない仕組みだ。時速が低いときにはSRSエアバッグを開いても意味が薄いし、クルマが斜めに衝突するときにも効果が得られないからエアバッグを開かないなどの理由によるものだ。
事故のときにSRSエアバッグが開かなかったのは、ドライバーが必死で事故を避けようとしてブレーキを踏んだり、ハンドルを切ったりした後で衝突したためなのだが、それが分からないドライバーから苦情が出た。そうしたドライバーに説明できるように搭載したのがEDRでもあった。
いずれにしても、自分が事故を起こしてしまったなら、ブレーキを踏んだのに止まらなかったなどと主張するのではなく、EDRを解析して事故原因を究明してほしいと言ったほうが良い。自分に非がないことを主張するのも良いが、かえって悪い印象を与えることになりかねないからだ。
AT車だから? なぜ、アクセルとブレーキを踏み間違えるのか?
最初に高齢者だけを悪者にするなということを書いたが、このアクセルとブレーキの踏み違い事故に関しては年齢の若いドライバーだと1%以下、あるいは2%以下なのに、75歳以上の高齢ドライバーだと3%以上に達していて、事故率は2~3倍になっている。75歳以上というと、相当な高齢者なので加齢による影響もあると考えられる。
また、アクセルとブレーキの踏み違いは、ほとんどすべてがAT車(2ペダル車)で発生している。マニュアル車では左足でクラッチを踏むことで、自動的にブレーキペダルやアクセルペダルとの位置関係が身につくのだが、2ペダルのAT車ではそれができないことが理由とされる。
運転姿勢の乱れが、踏み間違え原因の1つでもある
その上で、踏み間違いが発生するのは、正しい運転姿勢を取れなかったときであると考えられている。市原で保育園児が遊ぶ公園にプリウスが突っ込み、保育士がケガをした事故では、駐車場から出ようとしてチケットを探すか操作しようとしたときに“暴走”したという。
これが典型例である。チケットに気を取られて運転姿勢が崩れ、その結果として足の位置がズレてブレーキだと思ってアクセルを踏んでしまったのだ。同じように、クルマが低速で走り出した直後、シートベルトを装着しようとして体をひねったら、ブレーキを踏んだのにクルマが暴走したという例もある。これまた運転姿勢の乱れが踏み違いにつながったのだ。
福岡の事故では、“暴走事故”の前に軽度の衝突事故を起こしていたという。事故を起こしたことに慌ててしまい、アクセルとブレーキを踏み違え、何としても止めたいという思いから、ブレーキのつもりでアクセルを強く踏み続けたものと推測される。そうでなければ、恐らく本人がふだん出したこともないようなスピード(100km/h前後出ていたのではないか)で、突っ走るようなことは考えにくい。
<レポート:松下宏>
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